「室内楽」という言葉、聞いたことはありますか?

クラシック音楽のジャンルの一つだということはわかるかもしれませんが、具体的に何をさすのか説明できますか?
答えられる人は少ないのではないでしょうか。

そこで今回は、大学で室内楽サークルに入っていた私が、室内楽の歴史と楽しみ方について紹介させていただきます。
クラシック音楽を聴くときにこれを知っていると便利ですよ〜!
歴史の話はちょっと難しいかも、という人は、後半の「室内楽の楽しみ方」から読んでみてくださいね。

室内楽とは?

昔の室内楽


まずはその呼び名の由来をご説明しましょう。
クラシック音楽の文化が形成された時代、つまり16世紀〜18世紀半ばのルネサンス、バロック期の音楽は、大きく3つに分類されます。

ジャンル内容演奏の種類
教会音楽賛美歌などキリスト教の礼拝音楽オルガン、声楽など
劇場音楽オペラ、歌劇管弦楽、声楽
室内楽王侯貴族の屋敷で演奏された音楽全般器楽合奏(管弦楽含む)、声楽


この当時の室内楽とは、教会音楽や劇場で行われるオペラとは違い、邸宅や宮廷の一室で演奏される音楽、ということでこの呼び名になったと言われています。

英語で”Chamber Music”、ドイツ語で”Kammermusik”、イタリア語で”Musica da Camera”、つまり直訳すると「部屋の音楽」です。
なんだかそっけなく聞こえますが、当時「部屋」という言葉は王侯貴族の屋敷や宮殿の客間や広間を指したんだそうです。
それなら、そういう社交的な場で優雅にたしなまれていた音楽のことなんだと納得できますね!

使われた楽器は、バイオリンなどの弦楽器、フルートなどの管楽器、そしてチェンバロなどの鍵盤楽器でした。
弦楽器四重奏、木管五重奏などが4、5人でこぢんまりと演奏していたようです。

それ以外にも、弦・木管・鍵盤楽器の組み合わせで、小さいながらオーケストラとして管弦合奏もしていたんだそう。
あくまで屋敷や宮殿の一室で演奏するため、演奏者の人数は多くても25人ほどでした。
19世紀以前のオーケストラというと大体そのくらいの大きさが普通だったようです。
曲もそこまで長くはなく、1曲5分とか10分のものが多かったといいます。
でもこれが後の大きなオーケストラの原型の一つになりました。

この当時は、貴族のサロンでの音楽全般を室内楽と呼んだので、声楽や器楽独奏も含まれることがありましたが、後に室内楽とは別のジャンルになります。

現在の室内楽


では、室内楽は当初と今でどう違うのでしょうか?

室内楽が発展したのは17、18世紀の絶対王政の時代であり、音楽家たちが貴族と関係が深かったことが理由でした。
しかし18世紀後半の市民革命後、貴族は没落し、音楽は中流階級にも手の届く娯楽になりました。
さらに革命の影響を受けた作曲家たちは、貴族の楽しみのための音楽ではなく、自らの思想や内面を反映させたダイナミックな音楽を作ろうと考え始めます。
これは、オペラのように言葉に頼らずに音楽だけで感情や情景を表現したり、伝統にとらわれずに新しい形式の音楽を生み出そうとする試みでした。

こういった作曲家たちの斬新でダイナミックな構想は、小規模の室内楽の枠にとどまりませんでした。
それまで室内でこぢんまりとやっていた小規模のオーケストラの編成は、オペラの管弦楽と影響し合いながら、金管、打楽器、ハープなどを加えてどんどん大きくなりました。
例えばバイオリン1パートに10人もの奏者が割り当てられ、オーケストラ全体のメンバーは60人もいるということが普通になります。
それまでとはスケールが違いますね!

こうして、大きいコンサートホールで大衆向けに演奏される長大なオーケストラ(管弦楽)曲が増えていきました。
特に交響曲という種類の楽曲では、1曲1時間以上かかるものも作曲されるようになります。

しかし、もちろん室内楽が消えたわけではありません。
そこで室内で演奏していた小規模な管弦楽と、この大規模な管弦楽を区別する必要が出てきたため、25人以下でやるの管弦合奏を「室内管弦楽」と呼ぶことにしました。
そしてそれ以外の、基本的に1人1パートを担当する2~10人の小編成の器楽合奏は「室内楽」となりました。
これが現在の「室内楽」の定義です。

この時、声楽中心の音楽は、器楽伴奏があっても「声楽」というジャンルに位置付けられるようになりました。
反対に、ベートーヴェン『交響曲第九番』などは確かに声楽が含まれていますが「交響曲」という管弦楽中心の曲なので、声楽ではありません。

また、室内楽の本質は楽器同士の相互作用、つまりアンサンブルだと考えられるようになり、ソロである器楽独奏は含まれないことになりました。
アンサンブルとは、それぞれのパートが異なる旋律を演奏して調和させることで、具体的には合奏・合唱・重奏・重唱です。
1人しかいないソロでは、それは不可能ですね。

ところで、よく少人数での器楽合奏をアンサンブルと呼ぶことがあります。
じゃあ室内楽と何が違うんだろうと思う人も多いと思いますが、この場合のアンサンブルとは、器楽の演奏形態が合奏・重奏であるということを指します。
クラシック音楽のジャンルではないんですね。
他には、そういった合奏などをする演奏団体のことや、演奏の調和の具合という意味もあるようです。

さて、ここまでに出てきた器楽のジャンルを以下にまとめました。

ジャンル英語表記演奏の種類
器楽独奏Solo Instrumental1人での楽器の演奏
室内楽Chamber Music1人1パート担当の、2〜10人での合奏
室内管弦楽Chamber Orchehtra25人以下の弦楽器と管楽器の合奏
管弦楽Orchestra数十人での弦・木管・金管・打楽器の合奏


現在では、劇場やホールに行くと「大ホール」「小ホール」がありますね。
室内楽の公演は通常「小ホール」で行われます。
元々貴族の客間で演奏していた曲、つまり少ない人数で演奏する曲に対しては、小ホールが適しているからです。
コンサートに行く機会があればぜひチェックしてみてください!



人数に応じた呼び名

さて、室内楽は1つのパートを1人が担当する2〜10人の小編成の器楽合奏だということをお伝えしましたが、実は人数ごとの編成に名前がついています!
以下はその一覧です。

二重奏 デュオ
三重奏 トリオ
四重奏 カルテット
五重奏 クインテット
六重奏 セクステット
七重奏 セプテット
八重奏 オクテット
九重奏 ノネット
十重奏 デクテット

あなたはいくつ知っていましたか?
テレビなどで聞いたことのあるものもあったかもしれませんね!

演奏者としては、人数が少ない分、自分の音程やテンポが大きな影響力を持つということでプレッシャーも感じますが、適度な緊張感の中で仲間と生の音楽を作り上げるのはとてもやりがいがあります。
聴き手としては、ハーモニーが複雑なオーケストラよりも、シンプルな構造の室内楽の方が一つ一つの楽器の音色を聞き分けられて楽しめるというメリットもありますよ。

ここからは、室内楽の楽しみ方を紹介していきます!

室内楽の楽しみ方

デュオ・二重奏


よくあるのがピアノ伴奏と他の楽器との組み合わせです。
代表的なのは、ベートーヴェンの『ヴァイオリンソナタ第5番 “春”』や、サン=サーンスの『オーボエソナタ ニ長調』。

「〇〇ソナタ」というのはその楽器のために書かれた曲なので、タイトルだけではピアノが必要だとわかりませんね。それに「ピアノ伴奏」というと、ピアノは脇役のように聞こえます。
でも、ピアノはソナタに欠かせない存在なんですよ。
例えば上記のベートーヴェンのソナタは、途中でピアノが伴奏ではなくメロディを担当する部分がありますし、サン=サーンスの方では合いの手を入れたりしています。
このように、独奏楽器とピアノとの関係性に注目して聴いてみるのも面白いですね!

コンクールでもこの、ピアノと独奏楽器という編成が見られます。
個人で楽器のレッスンを受けている人にとっては、音楽教室の発表会でも取り組みやすい編成だと言えるでしょう。

一方、ピアノ伴奏ではない演奏方法もあります!
同じ楽器同士や、違う楽器同士で演奏するということです。
例としては、ハルヴォルセン『ヘンデルの主題によるパッサカリア』や、バルトーク『2つのヴァイオリンのための44の二重奏曲』が挙げられます。

前者のハルヴォルセンは、ヘンデルがハープシコードという鍵盤楽器のために書いた曲のテーマのメロディを、ヴァイオリンとヴィオラによって変奏させていくという手法でこれを作曲しました。ヴィオラの代わりにチェロが弾くこともあります。
ヴァイオリンパートは装飾音符や超絶技巧などを華麗に弾き、ヴィオラパートは伴奏やヴァイオリンとの掛け合いで活躍します。
ヴァイオリンが花形とはいえ、この曲にヴィオラの渋い低音は欠かせません!

後者のバルトークは、ヴァイオリン2台で演奏する曲です。
一見、同じ音域・音色の楽器の曲は、それぞれのパートの違いをはっきり打ち出すのが難しそうですね。でもこの曲はそんなふうに思わせないくらいうまくできています。
例えば、曲中で一方がメロディを主導して、もう片方は伴奏をしているのかと思いきや、いつのまにかメインのメロディをカノンのように追いかけて弾いていたりします。
そして、曲中で何度も登場する開放弦のラとミの音が、ハンガリーの民族的な曲調にとても合っています。このミの弦は、ヴィオラにもチェロにもない、ヴァイオリン特有のものなんです。

カルテット・四重奏


室内楽で最も耳にする機会が多いのは、弦楽四重奏・弦楽カルテットでしょう。

編成は、ヴァイオリン2本にヴィオラとチェロというスタイルが普通です。
並び方は曲や団体によって変わりますが、合図を出す第1ヴァイオリン奏者は下手(客席から見て左)の端にいることがほとんどです。

だいたいの役割として、第1ヴァイオリンはメロディを担当し、曲を主導します。
第2ヴァイオリンは、第1ヴァイオリンやヴィオラとハモったり、伴奏を担当したりします。
ヴィオラは、中低音域でリズムなどの伴奏や裏メロを担当することが多いです。
チェロは、低音での伴奏と、ときに甘くときに深い音色でメロディを担当します。
どのパートも、欠かすことのできない存在です。

カルテットの曲というとハイドンの『弦楽四重奏曲 第77番 “皇帝”』は、第1ヴァイオリンの軽やかでリズミカルな動きと、しっとりした部分とのコントラストが聴き所です。そしてなんと、第2楽章のメロディは現在のドイツ国歌に使われています。
その他に、ボロディン『弦楽四重奏第2番 ニ長調』では、きれいなメロディを4つの楽器が代わる代わる弾いていて、それぞれにバランスよくスポットライトが当たり、音域の違いを楽しめます。

また、映画音楽やアニメの曲が弦楽四重奏用にアレンジされることもとても多いです。
例えば私が大学のサークルで弾いたのは『アナと雪の女王メドレー』や『となりのトトロ』などでした。これをショッピングモールの一角で演奏したときは、お客さんに楽しんでもらえてとても嬉しかったです。
このように弦楽四重奏は意外ととっつきやすいですので、みなさんもぜひお気に入りの一曲を見つけてみてくださいね!

クインテット


クインテットというと、まずは上記の弦楽四重奏にピアノを加えた「ピアノ五重奏」や、フルート、クラリネット、オーボエ、ファゴットの木管楽器に金管のホルンを加えた「木管五重奏」が挙げられます。

この編成でよく知られているのは、ドヴォルザーク『ピアノ五重奏曲第2番』、ダンツィ『木管五重奏曲 変ロ長調』などでしょう。

でも「木管五重奏」に金管のホルンがいるのは変な気がしませんか…?
これについては、昔は金管・木管をあまり区別せず「管楽五重奏」という感覚でやっていたから、そしてトランペットやトロンボーンなど他の金管よりもホルンが取り入れやすかったから、という説があります。
ホルンの音色は柔らかいので木管との相性がいいのかもしれませんね。

他の編成としては、ベートーヴェン『ピアノと管楽のための五重奏曲』で、前述の木管楽器4つとピアノという組み合わせがみられます。
また、シューベルト『ピアノ五重奏曲イ長調 “ます”』では、ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスとなっていて少し特殊です。
コントラバスがいると音に厚みが出て安定するし、表現の幅も広がりそうですね。

弦楽合奏とは違う?


室内楽との境目が曖昧なジャンルに「弦楽合奏」というものがあります。
英語では”String Orchestra”といい、一般的にヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスで構成されます。

文字通り「弦楽器」の「合奏」なので室内楽のように聞こえるのですが、1人1パートが原則である室内楽と違って、1パートに2人以上が割り当てられるので厳密に室内楽とは呼べないという説があります。
でもCDショップなどでは便宜上、室内楽のコーナーに弦楽合奏のCDがあったりします。
また、カルテットでよく演奏される、モーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』も、実は室内楽ではなく弦楽合奏曲として作られたものでした。
このように室内楽と弦楽合奏は切り離せない関係なのかもしれませんね。

弦楽合奏の代表的な曲であれば、ヴィヴァルディ『4つのヴァイオリンのための協奏曲 ロ短調 第10番』、J.S.バッハ『2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調』や、ホルスト『セント・ポール組曲』、バーバー『弦楽のためのアダージョ』、チャイコフスキー『弦楽セレナード』などが挙げられます。

弦楽合奏は人数が多い分、音量や迫力に幅があるのが魅力です。
また、すべての楽器の音色が統一されているので、ヴァイオリンからコントラバスまで、音のグラデーションがなめらかなのも特徴です。
特に、静かな曲では神秘的な響きを感じられるかもしれません。

ところで、「弦楽合奏」があるなら「管楽合奏」もありそうだと思いませんか?
でもそれは「ブラスバンド」や「吹奏楽」というジャンルになるんです。
生まれた経緯が違うので、室内楽には当てはまらないんだそう。
音楽のジャンルって複雑ですね…。

まとめ


1. 室内楽とは
(1) 室内楽とは元々貴族のサロンで行われていた小編成の演奏のこと
(2) 現在の室内楽は、1人が1パートを担当する、2〜10人での器楽合奏のこと
(3) 室内楽には人数によって呼び名がある

2. 室内楽の楽しみ方
(1)~(3) デュオ、カルテット、クインテットなど様々な楽器の組み合わせそれぞれに魅力がある
(4) 弦楽合奏というジャンルも存在する

室内楽は比較的こぢんまりしているので、個々の楽器の音がはっきり伝わってきてライブ感があるのも魅力です。
オーケストラのような大規模な編成が仰々しくて苦手だという方にもおすすめできるクラシックのジャンルですよ。
ぜひ、コンサートやCDを聴いてみてくださいね!