10月にもなると、日中でも暑いと思うような日はほとんどなくなり、過ごしやすくなりますよね。

一日中施設の中で過ごし、季節の移り変わりがなかなか実感できないお年寄りにとっても、10月ともなれば秋を実感してこられている頃です。

その季節にはどういった音楽療法のプログラムを組めばいいのか、私が実際にある年の10月に行った実例をもとに、ご紹介したいと思います。

■ 目次

セッションの概要と目的・目標


当時は介護付き有料老人ホームに勤務していました。
そこでは主に午後、レクリエーションが行われていました。
その時間を利用して、私も音楽療法のセッションを行っていました。

クライエントは60歳代後半から98歳というご高齢の方までの20名程度、施設の都合上30分程のセッションです。
活発に発言される方は少なく、歌を歌うよりも聴く方が楽しい、自分で何かするよりも、音楽を聴いたり、セラピストの話を聞いて楽しみたいという方が多いグループです。

このグループでのセッションの目的・目標は、
1.歌唱による心身の活性化を図り、QOLを高めること
2.音楽療法のセッションへ参加することで、他の入居者とのコミュニケーションをとること
3.これらを自ら望んでいる入居者は、より活動的にセッションへ参加していただくこと
この3点です。

この目的や目標はセッションがはじまるまでに、かみ砕いた言葉にしてクライエントに伝えてありました。

同時に、より活動的にセッションへ参加することを希望されるかどうかの確認も行っていました。

このセッションでは、活動的な参加を希望される方が少なかったため、より受動的なセッションになるようプログラムを組み立てました。

導入の曲

私のセッションでは、導入部分に歌いやすい、季節の歌を用意することがほとんどです。

ですが、このセッションでは、音楽を聴きたいという方も多く集まられていたため、プログラムの初めから歌っていくことを避け、聴いていただくことからスタートしました。

聴いていただいたのが「ちいさい秋みつけた」です。

この曲は前奏が特徴的であり、前奏を聴くとこの歌がはじまるんだなと思わせてくれる曲のうちの一つです。

曲の最後の部分を前奏として弾き、歌ってもらうことはよくある事ですが、だれもが知っている前奏がついている曲の場合は、その前奏を活かした演奏を心がけるといいかもしれませんね。
より、その曲に関する情報を思い起こさせ、脳の活性化につながるでしょう。

そして次に、いつもの導入部と同じような、歌いやすい、季節の歌を用意しました。
それは「とんぼのめがね」です。

この曲は、歌詞の内容が少しずつ変化していく形で3番まで歌詞があるのですが、それを利用して、より、歌唱につながることを期待して計画しました。

ただし、歌うことを促すような声掛けは行いませんでした。
歌わなければいけないというプレッシャーにつながると考えたからです。

あまり活気のないグループや、重度の認知症の方ばかりのグループなどでセッションを行うと、盛り上がらなかったり、盛り上がるまでに時間がかかることもあります。

そんな時にも、盛り上がらないことに気をとられ過ぎることなく、聴いてくれることでセッションに参加されている方がいることを意識してセッションを行いましょう。

体操を取り入れた曲


ここでも、あまり身体を大きく動かしたり、複雑な動きを取り入れたりすることは、セッションへの参加を妨げる要因となると考え、「鉄道唱歌」にのせて指の動きだけでできる体操を行いました。


「鉄道唱歌」に合わせて、指を1本ずつ曲げていき、その後『パー、グー、パー』と付け加えると、全部で8拍分の動きになります。

この動きを何度も繰り返すだけの簡単な体操です。

繰り返すだけと言えども、それが難しい方もいます。
集中力が持たなかったりするためです。

そういったクライエントには、スタッフの方に、目の前や隣で声をかけてもらいながら、活動に参加していただけるように工夫しました。

何回か繰り返し行うことで、多くの方が参加することができました。

そしてこの曲に関しては、地名がたくさん出てくるという特徴もあり、それを利用して、クライエントが行ったことのある土地についての話をしました。

歌詞に登場する地名の中で、どこに行ったことがあるのかについて何名かに答えていただき、その地に行ったことがある方が他にいないか、などといった話題で盛り上がることができ、グループ内では時々コミュニケーションをとる場面もみられました。

クールダウンの曲

私が行うセッションでは、毎回同じ曲をクールダウンの曲として取り入れています。
その曲は「ふるさと」です。

この曲は、多くの方が歌詞を見ずに口ずさむことができる曲で、あまり歌うことに積極的でない方でも歌っていただけることが多々あります。

そして、クールダウンの際に私が行っていることがもう一つあります。
それは、感謝の意味を込めてクライエント一人一人と握手をすることです。

この曲であれば伴奏がなくても、多くの方に歌っていただけるというのも、その理由の一つで、歌いながらクライエントと握手をし、その日の感謝を伝えセッションを終わりにしています。

まとめ

1.セッションを行う際には簡単でもいいので、目標や目的を設定するのが望ましいです。
2.導入の曲は、季節を感じさせてくれる「ちいさい秋みつけた」と「とんぼのめがね」
3.体操を取り入れた曲は「鉄道唱歌」。簡単な指体操で、参加しやすい環境作りに努めました。
4.クールダウンの曲では「ふるさと」と歌いながら、感謝の握手で締めくくりました。

以上が、私が10月に高齢者向けに行った、音楽療法のプログラムの実例です。

セッション中も、あまり活発ではないクライエントが多いグループだと、話が続かなかったり、歌声が小さかったりと、寂しさを感じてしまうこともあるかもしれません。

そんな時は、受動的な音楽療法を意識して、プログラムを組み立ててみるのもいいかもしれませんね。


 音楽療法の記事一覧