「Caro mio ben」はクラシックの歌を学ぶ人なら必ず歌う曲です。
日本語では、「カーロミオベン」、「カーロ・ミオ・ベン」、「カロ・ミオ・ベン」などと読みます。

私はピアノが専門ですが、高校の3年間副科で歌を学んでいました。そのときに私もこの曲を勉強しました。

この曲はとても覚えやすいメロディーです。しかし平凡というわけではなく、メロディーには程よい跳躍があり、短い曲の中にも曲調が変化している部分があります。

今回は作曲者であるジョルダーニのことや曲の構成にも触れながら、弾き方と伴奏のコツについて書いていきたいと思います。

2人のジョルダーニ


この曲の作曲者には最近まで2人のジョルダーニの名前上がっていました。どちらが作曲したものかよくわかっていなかったのです。2人がどのような人物だったのか見ていきましょう。

Giuseppe Giordani ジュゼッペ・ジョルダーニ

長く作曲者とされていたのは「ジュゼッペ・ジョルダーニ」でした。

彼は1743年にナポリに生まれ1798年に亡くなったイタリアの作曲家です。彼は国外に出ることはなくイタリアでオペラ作曲家として活躍しました。

Tommaso Giordani トンマーゾ・ジョルダーニ

作曲者かもしれないとされていたのが「トンマーゾ・ジョルダーニ」でした。

彼は1730年にナポリに生まれ1806年に亡くなったイタリア出身の作曲家ですが、生涯のほとんどをロンドンで過ごしています。

これは彼の父がオペラの一座を組みヨーロッパを回っていたことが関係しています。ヨーロッパ各地を回っていたようですが、当時オペラがとても流行っていたロンドンを活動の拠点とすることにしたようです。

そのためトンマーゾは生涯のほとんどをロンドンで過ごすこととなったのです。

彼もジュゼッペと同じくオペラ作曲家として活躍しました。それだけでなく、管弦楽作品やチェンバロやピアノフォルテの作品も残しています。

同じ苗字なのでジュゼッペとトンマーゾが兄弟であると誤解をされることもあったようですが、血縁関係はないそうです。

ちなみにトンマーゾの父の名前はジュゼッペだそうです…わかりにくいですね…

どちらが正しい作曲者なのか

長くジュゼッペが作曲者とされていましたが、最近の研究でそれは間違いで、トンマーゾこそが本当の作曲者ということがわかりました。

なぜトンマーゾが作曲者とわかったのでしょうか。

それはこの曲を含む数曲の所有権を出版社に売った際の領収書がロンドンで見つかったからです。その領収書にはサインが書いてありました。

そこには英語風にトマスと書いてあったようですが、トンマーゾ・ジョルダーニであることは間違いありません。

この領収書が見つかったことによりジュゼッペは間違いだったことが明らかになりました。

2人のジョルダーニはバロック後期~古典派前期に活躍しており、同じナポリの出身であることから勘違いされていたのでしょう。

原曲は歌とピアノではなかった


「Caro mio ben」は「イタリア歌曲集」という曲集の第1巻の最後の曲として収録されています。

「イタリア歌曲集」はアレッサンドロ・パリゾッティ(1853~1913)というイタリアの作曲家、音楽学者がまとめたものです。

古典の曲を研究していた彼は17世紀や18世紀ごろの宗教曲やオペラのアリアなどから選曲し、「イタリア歌曲集」として出版しました。

オペラではオーケストラの伴奏がついているため、そのままの楽譜では伴奏を1人で演奏できないため、楽譜出版時にパリゾッティがピアノの伴奏に書き換えました。

「Caro mio ben」も原曲はピアノの伴奏ではありませんでした。原曲は弦楽4パートと独唱の組み合わせでした。


この曲も他のイタリア歌曲集の曲と同じくパリゾッティによってピアノ伴奏用に編曲されました。

パリゾッティの活躍した時代というのはロマン派の時代です。曲として選んだのは17世紀、18世紀のバロック~古典派にかけての作品でしたが、ピアノ伴奏はロマン派っぽい伴奏に編曲しています。

聴いていてあまりバロックらしさを感じないのはパリゾッティの編曲によるところが大きいのかもしれませんね。

イタリア語を歌うときの注意点と弾き方

私は歌が専門ではないので詳しくはないのですが…

イタリア語を歌う時の注意点を書いてみますね。知っておくと伴奏のときに役立つかもしれません。

子音

私が歌を副科で習っていたころに先生から子音と母音を分けなさいとよく注意を受けました。

これはどういう意味なのでしょう?

例えば「Caro mio ben」の最初の言葉「カ」で説明しますね。

音符のところで「カ」と発音するのではなく、その前から「C」を発音しておいて後で「a」を伸ばすということです。

♩ → ♩
カ     C a

子音と母音という表現ではなく、「言葉をはっきり」とか「言葉をもっと立てて」と注意を受けているかもしれません。このようなことを注意されるときは子音に問題があるときだと思います。

この出だしの「カ」も子音がはっきりしていないと「ア」にしか聞こえないと思います。これは日本語の歌でもありますよね?

日本語の歌よりももっと子音をはっきり前に出して歌うと良いそうです。

ピアノの伴奏は子音に合わせるのではなく、母音に合わせて弾くことになります。つまり歌が少し先行する形になるということです。

「r」は巻くのか巻かないのか

「r」は全て舌を巻いて歌えばいいわけではありません。見極めるポイントは「r」の前後です。

「r」が母音にはさまれているときは巻かない
「r」が母音と子音(もしくは子音と母音)にはさまれているときは巻く

「Caro mio ben」の歌詞で「r」が出て来るところを例にして見ていきましょう。

「caro」の場合は「r」の前が「a」で後が「o」両方母音なのでここは巻きません

次に「r」が出て来るのは「credimi」です。ここはどうでしょうか?前後が「c」と「e」になっていますね!つまりここは巻かなければいけないということになります。

私は最初この仕組みがわかっておらず、ここは巻かないとか巻くとかその都度先生に注意を受けていました。しかし仕組みがわかるとそんなに難しくないですよね。

この巻くのか巻かないのかは伴奏にも少し影響すると思います。

正しい歌い方は1つなのですが、仮に同じ単語を巻かずに歌ったときと、巻いて歌ったときを比べてみたとします。すると速さや勢いが若干違うと思うのです。

少しの違いかもしれませんが、伴奏はそれに対応した弾き方をしなくてはいけません。伴奏する側もこのようなことを理解しておく必要があると思います。

アクセントの位置

イタリア語を聞いたことがある方はわかると思いますが、言葉の後ろの方が強調されているような気がしませんか?イタリア語の多くの言葉はアクセントが後ろに来ます。(そうでないものもあります。)

このアクセントの位置でかなりイタリア語っぽく聴こえるので、重要かもしれません。(歌う場合はメロディーの関係上アクセントをつけにくい部分もあるかもしれません。)

アクセントの位置は伴奏するときにあまり関係ないように思えるかもしれませんが、同じ旋律を弾く場合は歌う人に合わせなくてはいけないので、知っておいた方が良いと思います。

「Caro mio ben」の歌詞の内容とは



「Caro mio ben」とは日本語で「いとしい人」という意味です。作詞者はわかっていません。

この曲の歌詞は「愛する人に自分を思ってくれるようにお願いをする」という内容になっていて、男性が愛する女性に対して歌っている曲です。

しかし、女性が歌ってはいけないということではありません。女性が歌うとまた少し感じが変わります。



イタリア語の曲は愛する人に対しての曲が多いような気がします。日本語訳を見ると驚くような口説き文句だったり、死んでやるなどと言っていたりしていてびっくりです。

イタリア語の曲で一般的にも有名なのはプッチーニのオペラ、ジャンニ・スキッキの「O mio babbino caro」(私のお父さん)だと思います。



この曲の歌詞は好きな人と一緒になることを許してくれないなら橋から飛び降りると娘が父親に宣言しているのです。素敵なメロディーですが、歌われていた内容は脅迫めいたものだったとは驚きですよね。

イタリア語の歌詞は詩から何か考えさせるような深いものはあまりなく、割と感情的なものが多いです。

伴奏をするときはメロディーだけで曲を捉えない方が良いと思います。きれいなメロディーでも感情的な激しい内容の歌詞もありますので、歌詞がどうなっているのかを理解した上で伴奏の仕方を決めた方が良いと思います。

「Caro mio ben」の弾き方と伴奏のコツ

スラーの捉え方


この曲は1拍目を2分音符で伸ばして歌う部分がとても多いですよね。

この曲を歌う場合、大体の方がこの2分音符をしっかり伸ばし切らずにブレスを取ってしまい、完全に気持ちが切れてしまっています。

私もこの曲を習ったときに注意を受けました。ギリギリまで伸ばしてからブレスし、気持ちは次に続いているようにしなくてはなりません。

伴奏部分を見てみましょう。スラーが細かく書いてありますね。この楽譜の通りに弾くと音楽が短く細切れになってしまうので、気を付けましょう。

歌と同じく長く続いているイメージを持つことが大切です。

このスラーは小さなフレーズの終わりと捉えると良いかもしれません。小さなというのがポイントで大きなフレーズはまだまだ続いています。

フレーズの最後の音は少し控えて弾くというのがルールですので、このルールを守ってねというニュアンスだと思って下さい。完全にここで切って、気持ちを切り替えるという意味ではありません。

曲の構成

この曲の構成はABAの形になっていると思います。詳しく見てみましょう。

A:前奏から間奏が終わるまで


この部分の歌詞は下のようになっています。

いとしいひとよ
せめて私を信じてほしい
あなたがいないと
心がやつれる


この部分、歌はどんどん下降しているのがわかるでしょうか?Es(caroの部分)で始まっていたのが次の始まりの音はC(credimiの部分)になり、さらにその先はAs(senzaの部分)になっています。

ピアノの伴奏は歌の旋律を一緒に弾いたり、ハモったりしているのがわかると思います。左手の部分を見て下さい。歌の部分とは逆に上行していますね。(senzaの部分はやや下がっていますが…)

つまり、歌は上から下へ、ピアノは下から上へとどんどん距離が近づいていくようになっているのです。

自分を信じて欲しい、もっと自分に歩み寄って欲しいという歌詞からこのようなメロディーと伴奏になったのかもしれませんね。

B:間奏後のIl tuo fedel~


ここから少し曲調が変化します。

ここの歌詞は下のようになっています。

あなたに忠実な男は
いつもため息をついている
やめておくれ、むごい人よ
そんなつれなさを


嘆いている感じの歌詞に変化していますね。この部分は伴奏の形も変化しています。

右手が和音でリズムを刻む形へと変わり、左手が歌の部分の対旋律の形になっています。ここは右手を抑えて左手を少し強調していきましょう。

しかし、歌の人より目立たないように歌を支えるつもりで弾きましょう。

音量もpからfになっています。感情の高ぶりを表現するようにしましょう。あくまでもピアノは伴奏ですので、どのように歌うかによって弾き方は変えていきましょう。

A:Caro mio ben~


また最初の歌詞に戻ってきましたね。

メロディーはほとんど一緒ですが2回目のcaro mio benでは装飾音がついており少し変化しています。伴奏もBで出てきた右手がリズムを刻む形に変化しています。

これは私の考えですが、この曲はA:お願いB:嘆きA:懇願だと思っています。

私がこの曲を伴奏するときは、最初のAでは右手の上のメロディーの音を目立たせて弾き、中間部のBでは左手を少し強調して歌の嘆きを支えます。

そして最後のAでは最初よりもお願い具合が多くなり懇願していると私は思っているので、最初のAよりも若干左手を強調して弾いています。

いろんな解釈があると思いますので、これが正解というわけではありません。歌う人がどのように感じているかによっても違ってくると思うので、参考程度にして下さいね。

タイミングをよく合わせておく


この曲の中で1番合わせにくいのはフェルマータ後の部分だと思います。

フェルマータは伸ばしていればいいので大丈夫なのですが、その後の4分音符を入れるタイミングが意外と難しいのです。

この部分は歌う人によってかなり違うので、どのタイミングで弾くのがベストなのかを見つける必要があります。間をかなり取る人もいれば、割とスッと歌う人もいます。

何度も練習してベストなタイミングを見つけましょう。

まとめ

◆「Caro mio ben」はクラシックの歌を学ぶ人なら必ず歌う曲
◆作曲者は最近まで2人の名前が上がっていた
◆トンマーゾが本当の作曲者
◆原曲は弦楽4パートと独唱の組み合わせ
◆パリゾッティによってピアノ伴奏用に編曲
◆男性が愛する女性に対して歌っている曲
◆スラーは細かく書いてあるがフレーズは長く
◆構成をよく理解し伴奏の仕方を工夫する
◆フェルマータの後のタイミングを合わせる練習をしておく