介護施設で音楽療法のセッションを高齢者に対して行う際に、クライエントの中に含まれていることが多いのが、認知症を患う方です。

認知症の方に対しては、どのようなセッションを行えばいいのでしょうか?
簡単なセッション案をご紹介したいと思います。

■ 目次

認知症高齢者に対する音楽療法の方法


認知症を患う高齢者に対して、音楽療法は有効だとされています。
それは、音楽のもつ力が、脳や身体機能の活性化につながるからです。

例えば、歌うことによって、嚥下機能や発声、発語、呼吸器系の機能が高まるとされています。
また、楽器を鳴らすことで、より効果的に運動機能を向上させることができます。

そして、音楽療法は、クライエントが歌ったり楽器を演奏したりすることにのみ効果が得られるというものではありません。
ただセッションの場に参加するだけであっても、得られる効果があるのです。

それは、受動的音楽療法と呼ばれるもので、若いころ聞いた懐かしい音楽を聴くことで、その当時のことを思い出し、それにより脳の血流量が増し、脳の活性化を促すことができます。

認知症の段階別、音楽療法のセッション案


では、実際に認知症を患う高齢者に対して、どのようなセッションを行えばいいのでしょうか?

軽度な方に対するセッション案

まず、認知症が比較的軽度である方に対するセッション案です。

軽度の認知症の方は、最近の出来事はしばしば忘れるが、古い記憶はほぼ保たれているような状態で、日常の会話はほぼ可能です。

そんな、認知症が軽度の方に対しては、健康な方と同じように、もしくは、少しの助けでセッションを行うことができます。
それは、健康な方に対しても、認知症予防の観点からプログラムが組まれていることが多いことが一つの理由です。

日常会話も可能ですので、若いころに歌った曲をきっかけに、昔を思い出すような会話を促すことに重点をおいたようなプログラムも有効ですよ。

ただし、健康な方と一緒にセッションを行っていると、どうしても認知症の方はおいていかれがちになってしまいます。

認知症の方は集中力が低下していたり、興味関心を持つ能力が低下していたりします。
また、昔の記憶が保たれているといえども、思い出すのに時間がかかってしまうのです。

そのような場合は、少し簡単な質問に対して順番に答えていただくような場面を用意するのはいかがでしょうか?

自分も答えなければいけないという緊張感を持っていただくことで、セッションに参加している意識を保っていただけると思います。

中等度である方に対するセッション案

それから、認知症が中等度である方に対するセッション案です。
認知症の中等度というのは、最近の出来事を記憶するのが困難であり、古い記憶も部分的に脱落している状態です。

また、日常会話にも時々支障があります。
記憶に頼る内容の会話も極めて困難になっているとされています。

会話に重点をおいたセッションが難しい症状ですよね。

セッションが1対1やそれに近いメンバーで行われていれば、工夫された会話は可能でしょう。
しかし、大人数の中でセッションが行われていると、一方通行の会話になってしまいがちです。

そこで、認知症が中等度のクライエントに対するセッション案としては、より身体を多く動かすプログラムをお勧めしたいと思います。

身体を動かすプログラムとは、体操をしたり、楽器を鳴らしたりといったものです。

体操や楽器を鳴らすという行為によって、音楽を聴くことによる脳の活性化と、身体を動かすことによる運動機能の向上が期待できます。

また、集中力が保てないクライエントでも、体操や楽器演奏などを行うことで、セッションの流れに変化がおき、再びセッションに集中していただけるようになります。

重度のクライエントに対するセッション案

最後に認知症の症状が重度のクライエントに対するセッション案です。

認知症が重度になると、新しいことは記憶できず、古い記憶も曖昧になります。
また日常会話も困難な状態です。

こちらからの言葉による語り掛けや、音楽によるアプローチも届いているのか届いていないのかがわからないこともしばしばあるような状態ですね。

そのような、認知症の症状が重度の方のセッションでは、受動的音楽療法を活用してみてください。

クライエントが懐かしく感じていただけるような曲を演奏しながら歌います。
クライエントからは歌が引き出せないかもしれませんが、一部だけでも歌える方、メロディーだけでも歌える方もいらっしゃるかもしれません。

童謡や唱歌など、なるべく簡単に歌える曲がいいでしょう。
また、簡単に鳴らせる楽器を活用することも効果を感じられる手段です。

タンバリンをクライエント一人ひとりの前に差し出すと、叩き返してくれる方もいます。
軽い鈴などを、マジックテープなどがついたベルトで手や足などに固定すると、鳴らしていただけることもありますよ。

少しでも、クライエントが持つ残存機能を活かしてセッションに参加していただけるといいですね。

まとめ

1.認知症高齢者に対する音楽療法は、歌うことや、楽器演奏など、自らが音楽を奏でるこ  とだけでなく、聞くことにも、その効果が生まれます。
2.認知症の症状の段階別に、軽度の認知症なら会話も積極的に取り入れ、中等度なら身体  を動かすプログラムを、重度なら受動的音楽療法を取り入れてみてください。

セッションを行うグループによっては、認知症の段階が様々なメンバーが混在している場合もあります。
そんな時も、それぞれに対するアプローチ方法を用いながら、より多くのメンバーが楽しめるようなセッションが行えるといいですよね。


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