ドボルザークと言えば交響曲第9番「新世界」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?しかし今回紹介するのは隠れた名曲の交響曲第8番。略して日本では「ドボ8」と言われている交響曲です。

実は私はこの第8番を初めから最後まで口ずさむことが出来ます。それくらい何回も何回も聴いてしまう魅力あふれるこの名曲。今回はもとオーケストラ団員、トランペット奏者の私がドボ8の魅力をあますことなくお伝えしていきます!
 
ドボルザーク交響曲8番



アントニン・ドボルザーク

ドボルザークは1841年チェコ生まれの作曲家です。チェコ国民楽派を代表する作曲家として知られています。

ドボルザークはとても数奇な運命をたどった作曲家の一人です。ドボルザークを音楽の道から離そうとする者と、音楽の道へ導く者の間で翻弄され続け、最終的に音楽の道で才能を開花させました。

ドボルザークの生家は肉屋。父親はスイスなどで使用されていた楽器、ツィターの名手として村の有名人でした。簡単な作曲もしていたようでドボルザークは音楽に囲まれた生活を送ります。また伯父はトランペットの名手でもありました。

音楽一家に生まれたドボルザークは小学校でも校長先生にバイオリンを習うなど、幼少期から音楽への興味を持ち始めます。才能があったドボルザークはあっという間にバイオリンを習得。彼自身も音楽の道を志したいという思いを徐々に募らせていきます。


しかしそんな中ドボルザークに肉屋を継がせたかった父親は彼を小学校から中退させ母方の伯父の肉屋へ修行に行かせるのです。父親によって音楽の道を閉ざされたかのように思われたドボルザーク。しかし当時出会ったドイツ語の教師がまたしても彼を音楽の道へ導きます。

ドイツ語の教師は、同時にキリスト教の音楽指導者で、ドボルザークにビオラやオルガンなどを教えるようになりました。どうしてドイツ語?と思うかもしれませんが、当時肉屋になるにはドイツ語が必修科目だったのです。

その後ドボルザークは音楽の道へ進みたいと父親に頼みますが、肉屋を継がせたい父親は大反対。真っ向対立かと思われたさなかドボルザークの味方をしてくれたのはトランペット吹きの伯父でした。

伯父の説得もありドボルザークは16歳で見事オルガン学校へ入学。肉屋の両親に経済的余裕はなくドボルザークは楽譜を買えないこともあったそうです。そうして苦学を重ねてドボルザークは学校をトップクラスで卒業。その後21歳でビオラ奏者になります。

そうして音楽の道へと進んだドボルザークが48歳の時に作曲したのがこの「ドボルザーク交響曲第8番」。肉屋を継がせたい父、音楽の道へ進むドボルザークに楽器を教えてくれた人々の間をさまよいながらも作曲家として大成した彼の愛国心溢れる名曲です。

ドボルザーク交響曲第8番とは

有名な交響曲9番がアメリカの音楽に影響されて作曲されたのに対し、交響曲第9番はチェコ人のドボルザークがチェコへの愛を表現した作品です。

交響曲第8番が作曲された1889年、チェコはオーストリア帝国からの独立の動きを高め、民族運動が盛んに行われていました。チェコの芸術家たちは民族的で愛国心に満ちた作品をこぞって発表。民族的なメロディーや情緒を取り入れた楽曲が人気を集めていたのです。

交響曲第8番もチェコの民族的な雰囲気を存分に取り入れた楽曲。チェコの田舎を彷彿させるメロディーにはドボルザークのチェコ民族としての誇りが込められているのかも知れません。

交響曲第8番は

第一楽章 allegro con brio
第二楽章 adagio
第三楽章 allegretto grazioso
第四楽章 allegro ma non troppo

から構成されています。次の章ではドボ8の魅力を演奏者の立場からお伝えしていきます。

もとオケメンバーのつぶやき

私はこのドボ8をトランペット第一奏者として吹いたことがあります。


第一楽章

チェロの悲しげなメロディーから始まるこの曲。元トランペット奏者の私のお気に入りの楽章でした。なぜならトランペットの出番がたくさんあるから!弦楽器や木管楽器の奏でる美しい旋律にチェコに吹く風のような、のびのびとしたトランペットが重なるのです。吹いていて本当に恍惚とした思いのする楽曲でした。

例えば序盤のトランペットのファンファーレ。(メロディー開始動画3:38)

ドーレファ ミーファーソ、ドーレファ ミファーソ と繰り返されるファンファーレが聞こえましたか?(ファンファーレ動画3:45)

想像してみてください!この曲のトランペットは2本。トランペットの私からすると、たった2本のトランペットのファンファーレを何十人のバイオリン、コントラバス、フルート、クラリネットなどのオケのメンバーが支えてくれている(ように感じる)のですよ!

例えるならば生オーケストラの演奏をバックに思い切り歌を歌うかのような気持ちよさ。もちろんプロの奏者はこんな独りよがりな考えは持っていないと思いますが、私はアマチュアオケの目立ちたがり屋のラッパ吹きだったので、このような箇所は大好きでした!

終盤では曲の冒頭でチェロが奏でた第一主題をトランペットが吹くのですが(動画7:18)この部分もトランペット奏者としては見せ場。この部分ではトランペットの後ろにいるティンパニがダダダダダダダ、と連打。トランペット奏者はティンパニ奏者の近くに座っているのでティンパニの音の振動が近くで伝わり、気分が高まるのです。

第二楽章

のどかなハ長調の主題が心に染みわたる楽曲。(動画10:42開始)

トランペットの出番はあまりありません。大抵トランペットなどの金管楽器は2楽章3楽章の出番があまりないのですが、ドボ8も同じくです。そんなときは何をしていると思いますか?

私は出番を待ちながら音楽を堪能していました。オーケストラの中にいながらオーケストラの演奏を鑑賞するというのは観客席で鑑賞するのとまた違ったダイナミック感が味わえるのです。バイオリンなどほとんどいつも演奏している楽器は難しいかもしれませんが、トランペットなどは出番が少ない楽章では特別席での鑑賞が可能だと言えるでしょう。

第三楽章

三拍子の田園風な素朴なメロディーが心を揺らす楽曲。(動画22:10開始)

思わず口ずさんでしまうような親しみやすいメロディー。(動画23:45) 木管楽器の奏でるメロディーを堪能しながら出番に向けて備えます。実はこの楽章の終盤には再びトランペットのすがすがしい見どころがあるのです。(動画27:28)

盛り上がりから急に静かになりあっさりと静かに終わる終わり方も素敵な楽章です。

第四楽章

トランペットのソロで始まるこの楽章。(動画28:01)
第一トランペットの吹くメロディーと同じ音を、第二トランペットが一オクターブ下で吹いています。

この動画の場合トランペットはC管トランペットを使っていますね。トランペットにはC管トランペットとB管トランペットがあり、私は高い音が多い楽曲ではC管トランペットを使っていました。

トランペットのソロが終わった後は弦楽器が第一主題を引き継ぎます。ファゴットの動きのある伴奏も味がありますよね。(動画28:35) 

また曲のところどころに現れる「吠えるホルン」も聴きどころです。(動画31:09) ホルン奏者もホルンを少し持ち上げています。

曲も指揮者も演奏者も終盤にかけて盛り上がりは最高潮に。駆け抜けるように音が押し寄せて気持ち良く「ジャンッ」と終わります。

まとめ

私は個人的にこのドボ8にはドボルザークのトランペット吹きの伯父への尊敬の気持ちが表れているように思えます。そう音楽の道へ進むドボルザークに反対する肉屋の父を説得してくれた伯父です。

4楽章でソロを吹いたトランペットは演奏後の拍手の中指揮者に促され立たせてもらえます。(動画40:05) この動画では木管楽器の後に立っていますが、場合によっては一番に立たせてもらえることもあるんですよ!

喜ばしさ溢れるようなト長調が軸になっているこのドボ8。メロディーがキャッチ―で動きもあり、クラシック初心者の人にもおすすめです。