タン タタタ タン タタタ タンタン、タン タタタ タン タタタ タタタ タタタ――このリズムに聞き覚えはありませんか?

これはラヴェルのボレロ、誰もが聴いたことのあるバレエ舞曲です。ボレロでは約15分間の演奏中ずっと同じリズムと2種類のメロディーが繰り返されています。これって一体なんで?と疑問に思った事はありませんか?

今回はそんなボレロの秘密を元オーケストラ所属・トランペット奏者の私が徹底的に解説します。知らなきゃもったいない、ボレロの魅力をぜひお楽しみください。

フランスの作曲家ラヴェル

ラヴェルは1875年フランスとスペインの国境地帯であるバスク地方に生まれました。

両親に音楽の才能を見出され音楽の道を歩みますが39歳の頃第一次世界大戦が勃発。志願兵になろうとしますが身体が弱かったため物資輸送担当に回されます。そんな中戦争中に母親が亡くなり、ショックから立ち直れないラヴェルは作曲の意欲を完全に失ってしまいます。

そんな失意の期間を長く過ごしたラヴェルが53歳の時、バレエダンサーから話を持ちかけられて作曲したのがこの世界的人気を誇るボレロです。

その後57歳でラヴェルは交通事故に遭い記憶障害と言語障害の後遺症を患ってしまい作曲が困難になりますが、このボレロは彼の代名詞とも言える後世に継がれ続けていく名作となりました。その後ラヴェルは62歳でその生涯を閉じています。

ボレロはこちらでお楽しみください


ボレロってどんな意味?

ボレロとはどんな意味なのでしょうか?

ボレロとは18世紀スペインで生まれた音楽。3拍子のリズムに乗せてカスタネットとギターを演奏する音楽ダンスです。ラヴェルはスペインに近いバスク地方で生まれましたので、スペインの音楽ダンスにも親しみがあったのかも知れません。

ラヴェルはこのボレロのリズムに乗せて自身の「ボレロ」をバレエ舞曲として完成させました。

現在でもバレエ曲として、ピアノ曲として、オーケストラ曲として様々な編曲がなされバリエーション豊かな演奏がされています。フィギュアスケートの演技曲としても選ばれており、1984年のサラエボオリンピックでボレロにのせて演技をしたトーヴィル・ディーンペアは審査員全員が満点を表示した伝説の演技をしたペアとして歴史に刻まれました。

オーケストラの視点に立って見てみよう

実は私はかつてオーケストラに所属している時にこの曲を実際に演奏したことがあります。そこで次は、オーケストラ奏者の気持ちになってこの曲を眺めてみましょう。

難易度高いトロンボーンとファゴット

トロンボーンとファゴット奏者にとってはハイトーンが続く難易度の高い楽曲です。

トロンボーン奏者が音を外してしまうのはよくあることで、私が数年前に聴きに行ったとある演奏会でも音を外してしまったトロンボーン奏者がいて、曲が終わった後に指揮者がパートごとに立たせて観客が拍手を送る際に、トロンボーン奏者には他のオーケストラメンバーからも「ドンマイ」の拍手が送られていました。(ちなみにオーケストラでは奏者は楽器を持っているので足を地面に軽くバタバタと叩きつけて拍手ならぬ拍足を送ります)

その難易度からトロンボーンとファゴットの場合はオーディションでボレロが課題曲となることも多いんだとか。私は個人的にはセクシーなボレロのトロンボーンとファゴットのソロがとても好きです。

元いちトランペット奏者の気持ち

あくまで個人の感想なのですが、私はオケでボレロを演奏していた時「ミュートなしで吹きたい!」と思っていました。ミュートとはトランペットの音が出る部分に装着する弱音器のこと。これをつけると音がこもって小さくなります。ボレロのトランペットのソロはこのミュートを付けての演奏です。

ボレロでのトランペットのソロはオーボエのソロの次。フルートと一緒にメロディーを奏でます。

私は目立ちたがり屋のラッパ吹きでしたので「ミュートとって一人でのびのびソロを吹きたい!」と独りよがりに思っていました。あくまで私の個人的な感想です。そしてソロが終わると味のある音色のテナーサックスにソロを引き継ぎます。このテナーサックスのソロがまた魅力的なんですね。

まとめ

ボレロはラヴェルの晩年に作曲された楽曲です。

当時このボレロを聴いたバレエダンサーが「この曲は狂っている!」と叫んだんだとか。「彼女だけがボレロを正しく理解していた」と後にラヴェルが語った有名なエピソードも残っています。

この同じリズムの繰り返しでラヴェルは今までの常識を打ち破ったのですね。

同じリズムの繰り返しというのは人間の基本的で原始的な感覚を惹きつけるのかも知れません。一定のリズムで刻まれる心臓の鼓動のように、繰り返されるボレロの主題。これがラストで突然の転調、爆発して勢いが加速する時、聴き手はそれまでの一定の安心感から解放されるとともに鳥肌の立つような興奮を身体の奥底から感じるのだと思います。

あなたもこのラヴェルが残した名作をぜひ堪能してみてください。