メンデルスゾーンの無言歌集の中でも『狩の歌』は特に有名ですよね。あの独特なリズムや旋律の華やかさに心惹かれる方々もたくさんおられるかと思います。

だけどテンポが少し速めな曲なので「弾けるか不安」という声もちらほらと聞こえてきます。でもいくつかのコツを踏まえて練習すれば大丈夫。「弾けない」という観念はとりあえず忘れて、楽しく曲のレパートリーを増やしていきましょう!


こんにちは! ピアノ弾きのもぐらと申します。音楽と穴掘りがライフワークです。地中でひっそりと身を潜めながら、音楽と向き合う時間は至福のひと時です。そんな音楽の楽しみを広めたい気持ちで、ピアノを教えております。

難易度自体は簡単だけど実は技巧的!


鹿さんはとても可愛いですよね。余談ですが、いつか仲良しになりたいと密かに思っております。もぐらですが。


では本題に入ってまいりましょう。

この曲の難易度としては、ツェルニー30番がだいたいマスターできていれば充分弾けるという感じです。そして、この曲は和音が多く盛り込まれています。特に和音を弾くのが得意という方々もおられるかと思いますので、人によっては簡単にマスターできてしまうかもしれません。

ただ、確かに全体的な難易度としては簡単なほうであるのかもしれませんが、この曲にはいくつか技巧的な部分があります。その辺りをこの記事でご説明していきます。

尚、この記事は主にピアノ中級者の方々向けの内容となっております。

まずはフレーズの塊に注目して構成を小分けにしよう!

次にこの曲のおおまかな構成についてお話していきますね。


この曲の構成については、場面が短いスパンで切り替わるという特徴があるので、場面ごとに小さく区切りをつけながら練習するにはわりととっつきやすい曲だと言えます。

ですが一方で、ハイテンポ且つ場面がコロコロ変わるが故に、気がついたら曲が終わっていた、なんてことも。つまり弾き方によっては印象に残らない演奏になってしまうこともあり得るのです。

そうならないためには、技術プラス場面ごとの個性的な表現が重要になってきます。せっかく弾くのだから、聴いてくれる人に強い印象を与えたいですよね。


では、下記の動画を聴いてみてください。




この曲をご説明するにあたって、一曲を以下のようにいくつかのセクションとして小分けにしました。セクションごとにお話していきますね。

セクションA:(最初~1:06)
セクションB:(1:06~1:52)
セクションC:(1:52~終わり)

※カッコ内の時間は動画に沿った時間です。動画をよく視聴し曲の理解を深めることによって、練習もしやすくなるかと思います。

では、さっそく各セクションを見ていきましょう!

もぐら式!弾き方のコツ

☆セクションAの弾き方 ~和音の構成に注目~

冒頭からいきなり印象的なフレーズが出てきます。セクションAでは堂々と華々しく、曲の最初を飾りましょう。

※ 「Molto allegro e vivace.」の意味は「非常に速く、快活に」
※ カッコ内は表題となる「狩の歌」という意味です。

この序奏が何とも格好良いのですよね。この部分は言わば曲の第一印象です。ですが、その分ここでずっこけてしまうとげんなりしてしまいます。たかが5小節、されど5小節。気合を入れて丁寧に練習しましょう。


そして、ここで私が最も重要だと思う部分は、1小節目の1拍目、オクターブの和音になっているところです。というのは、この曲をこれからどんなふうに奏でていくのかを、聴く側に瞬時に伝達するほどの力がこの第一音にはあるのです。

ですが、弾き方は自由です。例えばこの第一音を力強く弾く人もいれば、それとは反対に控えめに優しく弾く人もいます。

これは弾く人の個性なので、どういう弾き方が正解だとか不正解だとか、そのような基準はありません。いろんな弾き方を試しながら、自分なりの表現をしていきましょう。

序奏の段階においてこれからこの曲をどんなふうに弾きこなそうかというイメージを、何となくでもいいので鍵盤に向かう前に少し考えてみることをおすすめします。


譜面をご覧の通り、この曲には和音がたくさん出てきます。そして美しく耳に心地良い響きの和音が多いです。曲を聴いただけでも、この曲はとてもすっきりとした響きですよね。(0:06~)

ですが裏を返せば響きの良い和音が多いということは、一方でごまかしが利かないということでもあります。

単純なミス、そして音量が不揃いであるとか音が抜けているなどの問題は、まあいいやという気持ちでそのままにしておくと後々それが悪い癖になり、直すのに一苦労することになります。

それを防ぐために、片手練習の段階でわざとすべての和音をフォルテ(意味:強く)で鳴らして練習してみると効果的です。

そのときには、なるべく和音を構成している一つ一つの音がしっかりと均等な音量で鳴っているかどうかに注意しましょう。そしてこの方法を遅めのテンポで設定したメトロノームを使いながら、根気よく丁寧にやってみてください。

そして、慣れてきたらだんだんテンポを速めて、フォルテを外していつも通りの音量にしていきましょう。


この部分に限らず全体的に言えることですが、この曲の特徴である符点8分音符(ここでは右手に出てくる)が入った独特なリズムを弾くときには、ノリというか跳ねるという感覚を忘れずに弾いていきましょう。(0:15~)

☆セクションBの弾き方 ~旋律の響きをよく聴こう~

調が変わりました。セクションBでは場面展開が一層多く見られるので、しっかりと一つ一つのフレーズをどのように弾くのかをよく考えましょう。(1:06~)


ここでは左手が主旋律になりますが、この後には同じようなフレーズが今度は右手に出てきます。これは私の個人的な解釈ですが、この部分はまるで「問いと答え」のように感じられます。

左手のフレーズで質問を投げかけ、それに対して右手が答えを出すというか、返事をするようなイメージです。そういう意味で、ここは左手と右手のコミュニケーションを感じます。他にも解釈は人によっていろいろあると思いますので、自由に想像力を働かせましょう。

そしてこの部分もやはり、一つ一つの和音が綺麗な響きになるように音符が構成されていますので、ちょっとしたミスでも目立ちやすいです。練習をしていく中で不安な箇所が出てきたら、そこを重点的に練習しましょう。

どのような曲でも同じことが言えますが、不安な箇所をそのままにしていると、どうしても全体的な音色の中に自信の無さは必ず表れます。自信がつくまで根気よく練習して、堂々と弾きたいですね。


また、慣れないうちはどうしても和音を鳴らすのに精一杯になってしまい、ついついスラーやスタッカートが疎かになりやすいです。

ですがこの部分というのは、和音、スラー、スタッカートのどれか一つでも欠けてしまうと、途端にダラダラとした印象になってしまうのです。ここは特にコツコツ丁寧に、片手練習をしましょう。


ここは右手のオクターブの和音をしっかりと鳴らしましょう。そして左手はスタッカートです。細かいことかもしれませんが、たとえ短くても一つ一つの音の長さを均等にして弾くように心がけましょう。そうすることで右手がより一層引き立ちます。(1:15~)


かつて私はこの部分を何も考えずにガンガン鳴らしていたところ「うるさい!」との苦情を受けました。確かにここはフォルティッシモ(意味:一層強く)です。しかし当然、強く弾くことと乱暴に弾くことは違います。いろいろ反省しました。(1:27~)

そこで、このような部分こそ抑揚をつけるべきだと私は思いました。この部分は一つ一つの和音にそれぞれ強弱を、ちょっと大げさだと感じるくらいはっきりとつけることで、丁寧さと力強さが表現できるかと思います。


ここはなかなかに難しいと感じられる方々もおられるのではないでしょうか? セクションAのフレーズが左手に出てくるわけですが、この符点8分音符が難しいのです。というのはどうしても右手が、主旋律の左手のリズムにつられてしまうからです。(1:34~)

この部分はぶっちゃけて申してしまいますと、もう慣れるしかありません。ひたすらこの部分だけを抜き出して、これくらいだったらつられずに弾けるというテンポからだんだんテンポを速めていくという地道な練習が大事です。とにかく飽きるほど練習しましょう。

☆セクションCの弾き方 ~アルペジオを確実に~

さて、曲の終盤であるセクションCです。ちなみに私はこのセクションCが弾けないばかりに、一度この曲で挫折しております。とにかく焦らずに練習していくことが大事です。(1:52~)


「ああ、ここへきて今度はアルペジオ……最後まで弾ける気がしないなぁ」とげんなりする気持ち。しかも左手はあの独特なリズムのフレーズ。
でも諦めないでください。モチベーションを維持しましょう。あともうちょっと頑張ればマスターできます!(2:01~)

まずは左右の片手練習をしっかり行った後、譜面をよくご覧ください。そして右手のアルペジオの音と左手の主旋律の和音が重なり合う部分を一つ一つ洗い出してみてください。必ずどの音もどこかで重なり合っているはずです。

そうしたらゆっくりとメトロノームに合わせて両手で合わせてみてください。ほら、案外弾けていると思いませんか?

あとはそのまま目標としている速さになるまでひたすら弾き込むだけ。一見難しく見えますが練習方法は至ってシンプル、というか他の部分の練習方法とあまり変わらないような気さえしませんか?

どんな曲でもそうですが「難しそうに見えるから弾けない」と決めつけて弾かないでいるのは本当にもったいないことです。「難しい」と感じたときこそ譜面をよく観察しましょう。そこから何か得るものや気づきが必ず見えてくるはずです。

尚、アルペジオを弾くには何より指の運びがとても大事です。この曲に関しての指の運びは、なるべく譜面にある指番号を忠実に守るほうが練習効率は良いと思います。

しかし、弾いていて「このほうが弾きやすい」と思うところがあれば、無理に楽譜の指示に合わせる必要はありません。


最後の音に向かっていくこの部分は「もうすぐで終わる」という安心感から、やっつけ仕事のような味気ない弾き方になりやすい箇所でもあります。(2:28~)

ここは譜面には特別書いてありませんが、私の場合はほんの少しですがリタルタンド(意味:だんだん遅く)をつけて弾くようにしています。もちろんこれが全てではないですが、そのような少しの抑揚だけでも印象はかなり違ってきます。これに限らず、いろんな弾き方を試してみるのも楽しいかと思います。

表題の由来とは?ちょっとしたコラム

ではここで一つ、この『狩の歌』という表題の由来について、少しお話したいと思います。


まず『狩の歌』という表題はメンデルスゾーン先生がご自分でつけた名前ではないそうです。ちょっとびっくりですが、それにしたってじゃあどうして『狩の歌』なのか? それは、曲中の和音に理由が隠されていました。

昔、ヨーロッパでは狩をするとき、角笛を持参していたそうです。その角笛というのは、狩をする仲間との連絡手段として用いられていたとのこと。そしてその角笛というのは、現在のホルンの元となった楽器なのだそうです。

で、諸説ありますが一説では、この曲中に出てくる和音というのは、どうやらホルンの元となった角笛の音色を表しているのだそうです。獲物を得たときに遠くにいる狩猟仲間に知らせる音色だったのだそうです。

確かにそう言われると、この曲の独特な和音の響きやリズムというのは、どこか吹奏楽のような雰囲気も感じられますよね。ピアノの曲ですが、何だか吹奏楽のファンファーレを思い起こさせる気もします。

そういうわけなので、これも諸説ありますが、ご自分でつけた表題ではないけれど、メンデルスゾーン先生ご自身もきっとこの曲に対して、どこか狩の角笛を意識するところもあったのではないかと言われています。

要点を確認しよう!弾き方のコツのまとめ


さて、最後にメンデルスゾーン:無言歌集『狩の歌』の弾き方のコツについて以下にまとめました。


1、 一つ一つの和音が確実に鳴るように、練習時はまず遅めのテンポで練習する(特にセクションAセクションB
2、 細かいスラーやスタッカートも全体的な曲の印象に影響するので、譜面の細部まで注意しながら練習する(特にセクションAセクションB
3、 和音でも特にオクターブの和音は、単調で乱暴な弾き方にならないようにする(特にセクションAセクションB
4、 アルペジオは指の運びに気をつけ、左手の旋律と合わせるときは無理にいきなり速く弾こうとせず、気長に練習する(特にセクションC


以上の4つのコツを念頭に練習してみてくださいね。そしてもう一つ大切なことは、この曲を通して自分のそのときの気持ちを素直に表現することです。

これは私個人の印象ですが、この曲は弾く人の気持ちが特に表れやすい曲だと思います。私はこの曲がまるで自分の心を映す鏡のように思えてなりません。なので、そのときの自分の気持ちをこの曲に委ねて、自由に弾いてみてください。

誰しも絶好調な日もあれば「今日はいまひとつテンションが上がらないなぁ」という日もありますよね。

ですがそこが大事なところで、この曲は気持ちの波や揺らぎすらも個性に変えてしまうという不思議な曲なのです。ぜひその瞬間にしか表現できない何かを表現してみてくださいね。

それでは練習、頑張ってください。畑の地中から今日も応援しております!

by ピアノ弾きのもぐら


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