ゆったりとした心地よいメロディ。聞いていると心が落ち着いてくる「トロイメライ」は、ロベルト・シューマンが作曲した「子供の情景」という13の小品からなる曲集の中の一曲です。

「トロイメライ」とはドイツ語を語源としての派生から、‘夢’や‘夢想’という意味があります。その名の通り、目を閉じて聞くとそのまま心地よい眠りに誘われそうな穏やかな曲想ですね。実際に、多くのリラクゼーションCDなどにも収録されています。

私はもやもやとした気分の時にこの曲を弾くと、ゆりかごに包まれているような心地になって、不思議と弾き終わるころには気持ちが落ち着くんですよね。聞く人にも弾く人にも、幸せなひと時を連れてきてくれる素敵な曲です。

今回は、シューマンの代表作である「トロイメライ」について、演奏のポイントをお話ししましょう。

■ 目次

難易度は?


全音のピアノピースではD(中級上)となっています。
「子供の情景」という曲集のタイトルが付けられているため、よく子供用の練習曲集だと勘違いされているのですが、‘子供のための曲集というわけではない’という事をシューマン本人が言っています。子ども自身の目線で書かれた曲というよりは、大人が自分の子供時代を想っている情景を描いた曲、ですね。

「トロイメライ」はゆっくりとしたテンポで、パッと見の譜面も音符がとても多いわけではないですね。しかし、バッハを代表するバロック音楽を敬愛していた影響が色濃く出ている作品ともいえます。メロディが一つだけではなく、複数重なるように出てくるのです。

‘曲が弾けた’という基準をどこに設定するかによって、難易度が変わってくる曲ではないかなと思います。

① 音符を読めて弾けた
② メロディの動きを意識しながら弾けた
③ 情感を出しながら、音の質にこだわって弾けた

この三つには、大きな差があります。

演奏活動をするピアニストでも、決して簡単な曲ではない、と言います。弾けば弾くほど深みがあり、誤魔化しが効かないからです。

こんな風に書くと、なんだか難しそう…やめておこうかな、なんて思われてしまいそうなのですが、そんなあなたにこそ挑戦してもらいたい!

とりあえず、まだ弾いたことがなければ、①を目指して練習しましょう。

ピアノは続けることが大事なことです。その中で、一度弾いた曲をもう一度掘り返して練習することは、演奏家の誰もがお勧めすることでしょう。

一度弾いた時には気づかなかった発見が、必ずあるからです。

「トロイメライ」はあなたにとって、長く愛し続けられるレパートリーとなるでしょう。

メロディがどこにあるのかチェック!

シューマン「トロイメライ」ヘ長調Op.15-7ピアノ楽譜1
楽譜を見渡したら、まずメロディがどこにあるのかを探しましょう。
難易度のところで少しお話ししたように、この曲は右手の上のメロディだけでなく、‘内声’と呼ばれる右手から左手へと繋がるメロディ、そして、左手も伴奏ではなくメロディと言えますね。全てが旋律で構成された曲です。

片手ずつ練習するのはもちろんですが、それに加えて、上、真ん中、下、と分けて練習するともっとメロディを効果的に弾けるようになります。

そのためにお勧めなのは、‘メロディの色分け’です。

本を使っている人はコピーをとって、3つのメロディをそれぞれ色鉛筆なので辿ってみてください!内声(真ん中のメロディ)が右手と左手を行き来しているのが、視覚的により分かりやすく捉えられますよ。また場所によっては、一番下のメロディに受け渡すようになっているところなども発見できると思います。

それでは、いざ内声の練習をしよう!というときに、良くやってしまいがちなNGを紹介します。

それは、弾きやすい指使いで弾いてしまう事です。

最終的には上や下のメロディと合体しなければいけないので、「必ず上や下のメロディと弾いたときに使う指使い」で練習してください。

始めに音楽の流れを捉えるだけでしたら弾きやすい指で弾くのも有りです。
でも殆どの方は、最初に弾いた指使いが固定されてしまうので初めから完成時に使う指使いで練習するのをお勧めします。
最初はとても弾きにくいし分からなくてイライラしてしまうかもしれません。その場合、分からないところはどんどん書き込みましょう!一度迷ったところは、次も迷う確率大です。書き込めば印象に残り、練習効率もUPします。

その後の練習に繋がるように、歩みを進めていきましょう。

和音には心配りを。

シューマン「トロイメライ」ヘ長調Op.15-7ピアノ楽譜2
両手で弾けるようになってきたら、二分音符や付点二分音符の和音を大切に弾くことを心がけましょう。「トロイメライ」は、メロディが基本的に一つの音符で構成されています。そして、曲全体にとても穏やかで静かな温もりがあります。そのイメージを保つために、とても重要です。

和音というのは音が重なっている分、強く弾かなくても一つの音符で繊細に作られたメロディをかき消してしまう事があります。「トロイメライ」において、和音は響きであり、支えです。メロディを引き立たせるための存在なので、メロディより決して大きくならないように弾きましょう。1小節目の二拍目、6小節目の左手など、手元に集中せず、耳に意識を向けてバランスを聞いてくださいね。

また、それが気を付けられるようになったら、四分音符などのもっと細かく動いていく和音にも気を配っていきましょう。そうすることにより、よりメロディを際立たせることが出来ます。

全部を一度に気を付けようとすると余裕がなくなってくるので、このように段階を踏んで練習するのもいいですよ。大事なところの優先順位もおのずと分かります。

強い音、怖い音は「トロイメライ」の世界に存在しません。

夢見心地のメロディを、柔らかい和音というベッドに寝かせるようなイメージで曲作りをしましょう。

‘揺らし’は、イメージで弾くべからず!

シューマン「トロイメライ」ヘ長調Op.15-7ピアノ楽譜3
段々と練習が進んでくると、これまで聞いてきた「トロイメライ」のように、譜面に記されていない‘揺らし’を加えたくなってくるでしょう。

むしろ、それに憧れて選曲した方だっているはずです。自由に赴くままに演奏している姿って、こなれている感じがしてかっこいいですよね。

ネットのお陰で、色んな人の演奏が聞けるようになりました。100人いたら100通りの揺らし方、弾き方があると思います。

しかしその中には、「何かが変だな」と感じてしまう演奏があります。その違和感の正体は、いったい何なのでしょうか。

動画サイトの方々には実際には確かめられないので分かりませんが、生徒さんで良くあるのは、「ただ誰かの真似をして弾いているとき」です。

レッスンをすると、あー…録音の演奏を聞いたんだな、というのが良く分かります。笑

好きで聞いていると、耳に残っているのもありますね。あの人のように!あの演奏に少しでも近づきたい!それも素敵な心掛けでしょう。でも、理論がなく揺らしていると、曲の流れに矛盾が出てきます。

実は、 ‘揺らす’ことはどこまでも自由なわけではないのです。

リタルダンド(だんだんとゆっくりする)などの記号とは違い、使える時間の幅は決まっていて、演奏家はその時間をどのように、どのメロディにたっぷり注ぐか、というのを微細に計算しながら、知識、経験に基づいて自由に演奏しています。一見、何もなく自由に弾いているように聞こえますが、全体のバランスの中で曲を動かしています。


小難しい話になってしまったので、一つ例え話をしてみましょう。

あなたがカフェオレを作るとして、コップにどれくらいずつ注ぐか考えます。

・コーヒー(聞かせたいメロディ)
・牛乳(その他の部分)
・コップ(時間)

置き換えるとこのような感じです。

人によって好みの割合は様々ですが、ある程度、カフェオレ(トロイメライ)はこういうものだ、という定義は決まっていますよね。

コップにコーヒーを多めに入れると、おのずと牛乳を注ぐ量は少なくなります。
コップに注げる量は決まっているので、コーヒーが濃いからと言って牛乳を多くすることは出来ません。一定の量より入れすぎると零れてしまうのです。

違和感のある例としてよくある演奏は、このコーヒー(聞かせたいメロディ)と牛乳(その他の部分)の割合が偏っていて、コップ(時間)から零れてしまっている状態です。
他にも、逆に牛乳が多すぎてコーヒーの味がしなかったり、そもそも両方が少ない場合もあります。

コップの大きさが分からずにコーヒーと牛乳を入れる=イメージで揺らす、です。

コップが分かって注ぎ入れてこそ、その次の段階、感覚で揺らす、というところに行けるのです。


それでは、自分の演奏をチェックしてみましょう!

一切の揺らしをせずに、譜面通りの音符の長さで弾けますか?

とても弾きにくいと思いますが、試しに確認しながら弾いてみてください。

意外と良く分かっていなかったりします。。笑

あ、でもあくまでもチェックするだけで、ずっとそれで練習するのがいいわけではないです。たまに自分で確認してみる程度でいいでしょう。

楽譜に誠実に向き合った上で、自分なりの色をつける。本来の楽譜を知っていることが、曲に対する最大のリスペクトにもなりますね。

何となく弾くと、何となくの演奏になります。こうしたい、という自分の意志が大事なのです。


まとめ

1.メロディを探して、意識する
2.和音の響きで曲を美しく♪
3.‘揺らし’は適当ではなく適度に!


以上が、演奏に役立ててもらえたら嬉しいポイントです。

「トロイメライ」の夢のような時間が、皆さんに訪れますように♪



「トロイメライ」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1887年にペータース社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。「子供の情景」全13曲が収録されており、第7曲「トロイメライ」は7ページからになります。
  • Mutopia Project(楽譜リンク
    最近整形されたきれいなパブリックドメインの楽譜です。


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