今回はいつもと趣を変えまして、「私が嫌いな登場人物トップ10!」をお届けいたします。横溝正史・金田一耕助シリーズは77作品からなる、ご長寿探偵小説です。77作品ですから、登場人物の数も多くバラエティに富んでいます。今回は、私が「嫌い!」と強く感じた登場人物をランキングにまとめてみることにしました。

「トップ10」にまとめるためには、大きく分けて2つの方法があると思います。それは「感情」と「事実」です。前者は、「読み手の感情」です。「ザ・ベストテン」や「歌のトップテン」などは、視聴者の感情が集まったものです。自分が応援する歌手がランクインしたら嬉しかったですよね?反対に、自分が嫌いな歌手がランキングから外れたら、ちょっと嬉しかったはずです!?

一方後者(事実)は、作品内に書かれた「モノ・コト」の数をカウントすることをいいます。横溝正史は、自分のもつ経験や、自分を取り巻く人やモノをモデルにして書く人なので、作中の「モノ・コト」をランキングすれば、横溝正史の持つ趣向がはっきりと現れてきます。そのような点ではランキングする意味がある、貴重な小説家なのです。

例えば、作品にはときどき「ネコ」が登場します。イヌよりもネコの方が、登場回数は圧倒的に多いです。これには「横溝正史自身がネコ好きだったから」という事実があります。(奥様との結婚を決めたのは、奥様が“ネコ好きな女性だったから”です。)ちょっとしたコトや小さなモノにも、「横溝正史」が潜んでいるのです。

今回は「感情」に基づくランキング(私的なものですが)です。「感情」は、人と分け合うことができます。「分け合いやすい感情」・・・それは「嫌いな人」に対する感情ですよね!?
いつかは「私の好きな登場人物トップ10」も書くだろうと思います。では、どうしていきなり「嫌いな人トップ10」なのか・・・。それは、みなさんと感情を分け合いたいから・・・ということにしておきましょう!

それではまず、トップ10から6位まで、一気に進めて参りましょう!「40代女性ライターが選ぶ“私の嫌いな登場人物トップ10”スタートです!(※選考対象は原作版のみ)

まずは、第10位から第6位!


第10位は・・・母娘に恋した粘着男!「女王蜂」怪行者・九十九龍馬

女王蜂 (角川文庫)

ヒロイン・大道寺智子に恋する怪しい行者・九十九龍馬。若く美しいヒロインに恋する前は、ヒロインの母に横恋慕していました。智子の前で、さんざん頼りになる年上の男を演じておきながら、「わしは、おまえに首ったけなんじゃ!」と智子に対する思いをぶちまけながら袴を脱ぎだす龍馬。かなり気持ち悪いです。

九十九は、目を合わせるだけで女を思うままにできる「怪力」の持ち主です。怪しい行者スタイルもさることながら、セリフの1つ1つがねちっこく、不快極まりない人物でした。こういう奴に限って、セリフが多いんですよね。

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第9位は・・・ミスター・エマナチオン!「迷路の花嫁」霊媒師・建部多門

迷路の花嫁 (角川文庫 緑 304-41)

10位にランクインした九十九龍馬とキャラが丸被りしている建部多門。白い着物に水色の袴姿。長い髪に長いヒゲ。実はこれ、10位の九十九龍馬とまったく同じファッションです。怪しい祈祷で女性をあやつるのも、九十九と同じ。とにかく邪悪な霊媒師(祈祷師)です。

「わしの肉体から放射する霊的エマナチオン(放射性希ガス)を、女は抱擁しながら摂取する」と、現代警察の前で笑いながら話します。エマナチオンを吸収すると、イイことがあるそうです。傍若無人な建部が人から言われて傷つく言葉は「影が薄い」と「落ち目」です。

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第8位は・・・タチ悪すぎ!「人面瘡」ヒロインの妹・福田由紀子

人面瘡 (角川文庫―金田一耕助ファイル)

ヒロイン・松代の妹です。姉の彼氏を寝取ったかと思えば、別の男性とも同時に関係を持っています。ここまでは、よくある話ですが・・・。由紀子が本当に欲しいのは、男ではなく「姉の悲しむ姿を見ること」だったのです。あろうことか、自分の犯した大罪を姉に擦り付けた、とことん底意地の悪いオナゴです。

私も二人姉妹の妹ですので、由紀子と同じポジションです。出来の良い姉に対する劣等感は私にもありますから、由紀子の気持ちがわからなくもないです。でも、姉の病気を利用して、記憶まで塗り替えてしまった由紀子はやっぱり許せません。

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第7位は・・・げっげっげ!「悪魔が来りて笛を吹く」医者・目賀重亮

悪魔が来りて笛を吹く (角川文庫)

通称「ガマ仙人」と呼ばれる医者です。笑い声は「げっげっげ」。ヒロインの母・あき子(原作では火へんに禾)の主治医ですが、同時にあき子専属の「夜の主治医」でもあります。雇われ人という立場でありながらあき子を呼び捨てにし、キレると暴力を奮う粗暴な人物です。

目賀の好色な目と脂ぎった肌に、さすがの金田一も毒気に当てられてしまいます。こういう人物って結構早い時期に「抹殺」されますが、このガマ仙人は最後まで生き延びます。

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第6位は・・・度を超えた潔癖症!「本陣殺人事件」学者・一柳賢蔵

本陣殺人事件 (角川文庫)

祝言の夜に新妻が殺害されました。夫であった賢蔵氏は40歳初婚。とんでもない価値観の持ち主です。40代になるまで、女性に対する儚い夢を抱き続けてきました。その思いが高じて悲惨な結末を迎えます。

賢蔵は、他人が触った火鉢をアルコールで消毒するくらいの潔癖症。「ネチネチとした陰険な回りくどい計画」と警察も呆れています。長年書き続けた日記も恨み言だらけ。「日記の字を見ているだけで息切れがする。」そう金田一に言わしめた「神経質男」です。

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10位から6位までのまとめ

はい、10位から6位まで一気にお送りさせていただきました。意図的に振り分けたわけではありませんが、6位の一柳賢蔵以外は「サブキャラクター」でした。なんとまあ・・・サブキャラにしては、「濃い」人物ばかりがランクインしましたね。ちなみに、九十九龍馬と目賀重亮は胸毛も濃いです!

九十九と建部のビジュアルは、横溝正史が持つ「新興宗教家」のイメージなんでしょうね。現代にも通じますね、十分。ランクインさせていませんが「女怪」にも祈祷師・跡部通泰が登場します。跡部も2人と似たり寄ったりの人物像です。3人が出くわしたら大変なことになりそうです。

それでは続けてまいりましょう。第5位から第3位です!


第5位は・・・天然女子ならぬ養殖女子!「三つ首塔」宮本音禰

三つ首塔 (角川文庫)

音禰には、読んでいてかなりイライラさせられました。「私、そんな女じゃありません!(キリッ)」とか言いながら、結局はいつも男に流されます。口調は激しいくせに、筋が通っていないのです。意外な人からの好意に気付いても、「私のことを愛していらしたなんて!」のキョトンぶり。本当は知っていたでしょ、と思うのは私だけでしょうか。

「いったい、どうしてこんなことになってしまったのか・・・」という嘆き方も、天然女子を演じる「養殖女子」の行動にしか思えません。こういう「養殖女子」ぶりは、ラストのみならず、エピローグまでエンエンと続きます。「食あたりのような苦痛を与える人物」ということで、罪はありませんが堂々の5位にラインクインです。

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第4位は・・・あなたこそ悪魔です!「悪魔の寵児」実業家・風間欣吾

悪魔の寵児 (角川文庫)

ハッピーエンドを迎える風間氏ですが、事件の根っこは、実はこの人から始まっています。実業家らしい堂々とした立ち居振る舞いに、多くの女性が騙されました。自分の妻や愛人たちが次々と惨殺されても、自分に原因があることに気がつきません。「自分に恨みを持つものの犯行だ!」と口では言いながら、自分の「真実の罪」をシレっと忘れているのです。

やがて身の危険を感じた生前の愛人たちに「おいとま乞い」をされてしまう風間氏には「ざまあみろ」と言いたいところですが、実はまだまだ隠れ愛人がいます。最後の最後の最後まで、1人の女に真実の愛を注がなかった風間なんか、中途半端な第4位がお似合いです。

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第3位は・・・サイコパスならこの人!「支那扇の女」画家・朝井照三

支那扇の女 (角川文庫 緑 304-27)

ドSです!妻や従兄弟にまで「ドS」で迫ります。やっていいSとやっていけないSがあります。この人のSは「スパイス」ではなく「猛毒」です。人を追い詰めるためなら、手段を選びません。これを本人が「ちょっとしたいたずらです、テヘ。」と考えているところが許せません。

「容姿端麗の天才」という名の皮を被った、一見善人の変態です。妻をいじめるために、墓まで暴いてネタを用意する朝井は、まさに今で言う「サイコパス」です。嫌いというより、ゾッとさせられた人物です。

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第5位から第3位までのまとめ

ここにランクインした人物は、全員メインキャラです。中でも第5位の宮本音禰はストーリーテラーとしての役割も務めますので、どうしても音禰の心情が多くなります。ウザくなってしまうのは仕方がないかもしれませんが、「私のせいで・・・」というブリッ子具合がやっぱりウザいのです。愛を知ったことで、もっと強く賢い女性に生まれ変わって欲しかったなあ・・・という残念な気持ちを込めて、第5位となりました。

それでは、栄えある第2位から第1位の発表です!


第2位は・・・往生際の悪さ№1!「幽霊男」自称画家・佐川幽霊男

幽霊男 (角川文庫―金田一耕助ファイル)

佐川幽霊男、もちろん偽名です。長髪にベレー帽、黒めがねの自称画家。笑い方は「うっふっふ。」等々力警部に「これほど卑劣で汚らしい犯人にはお目にかかったことがない」と言わしめた逸材です。現行犯で逮捕される瞬間も、「ぼくはなんにもしらんのです~」と涙顔で無実を訴える往生際の悪さ。

殺人の動機は、ねじまがった「劣等コンプレックス」です。ヌードモデルを何人も集め、殺戮を繰り返します。死体たちを自分の芸術の材料のように、“おもちゃ”にしてしまいます。劣等コンプレックスが裏返って「自己顕示欲の塊」となった幽霊男は、「胸糞の悪さ」ではピカ一です。

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輝く第1位は・・・人間のクズ!「悪魔が来りて笛を吹く」元子爵・新宮利彦


悪魔が来りて笛を吹く (角川文庫)

妻の財産を使い果たし、快楽のみに生きた元子爵です。「特権階級」のイヤ~な要素を集めて具現化したのが、この男・新宮利彦です。物語に蔓延している陰惨さは、「人面獣心」と揶揄される、この男から発せられています。

7位にランクインした、「ガマ仙人・目賀重亮」もこの作品の登場人物です。この人も最初はこの家に真面目に医者としてやってきたのかも知れません。そこへこんな人間のクズがいたら・・・目賀も被害者の1人なのかもしれないと、ガマ仙人に同情の気持ちを起こさせるほどの強烈な力を、利彦は持っています。

「この物語だけは映画化したくなかった」横溝のこの言葉は、ほとんど新宮利彦に宛てたようなものです。新宮利彦が何をしたのか、を具体的に書くとネタバレになりますので「全てを踏みにじり、全ての人を不幸にした」とだけ申し上げておきましょう!

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まとめ


ランキングの中に、あなたの嫌いな登場人物は入っていましたか?それとも、「私的には好きなキャラクターなのに!」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。(ほとんどいないと思いますが・・・。)いずれも私の胃が「モゾモゾした人」ばかりです。

77作品、全ての中から10人選出するのは、時間がかかりそうですが実はそうでもありません。題名一覧を見て、「うえっ」と感じたか、感じないかでピックアップしました。ストーリーの内容ははっきりと覚えていないけれど、「なんか嫌」という「脳が覚えている記憶」を頼りにしました。詳細を確認するのに読み返しましたが、何回読んでもやっぱり嫌いなままでした。

ちなみに、私の姉(※長男出産時、分娩台にいくまで金田一を読んでいました)に嫌いな登場人物を聞いてみたところ、「ブラウスを着て、肩口までの髪を軽く捲いて、横顔が美しい女。金田一シリーズは“キ○ガイ”以外登場禁止。」と答えました。このような、犯罪者を待ち望む人もいるのです!いつか「応援したくなった犯人トップ10」にトライしてみようかと思います。