そうだ、大阪、行こう。

たこ焼きを食べにでも「よしもとライブ」を見にでもありません。私は行きそびれてしまったのです。ピーター・ブリューゲル「バベルの塔」展の東京展へ。東京展は7月2日までだったのを忘れていました。しかし7月18日からは大阪でやるそうです。よし、青春18きっぷで行こう!(2017年7月ごろの記事です)

http://babel2017.jp/outline.html

私はピーター・ブリューゲルの絵画がとても好きです。特に農民シリーズは当時の人々の様子がリアルに描かれていて、本当にその場にいる気がしてきます。特に「農民の踊り」という作品が印象的です。これを見ていると条件反射的に、ベートーヴェンの交響曲第6番の、どの楽章でも頭の中に流れてくるのです。


そんなわけで、今回はベートーヴェンの全作品の中でも特に大作であり、音楽史の中でも傑作である田園をご紹介しましょう。

運命と姉妹作?

クラシック音楽の中で最も有名な第5交響曲とほぼ同時に作られたこの曲は、曲の雰囲気は全く正反対ですが構成がとても似ています。また第3や第4交響曲に続いて、さらに斬新な演出をしています。ソナタ形式の枠組みの中で、これまでの作曲家は成し得なかった試みがなされています。しかもそれは200年近く経った今でも聴く人に強い衝撃を与えます。

曲そのものと各楽章に作曲者自身による標題がついています。ベートーヴェンの全作品で作曲者によって名前が付けられたと推測されているものは、この田園とピアノソナタの「悲愴」「告別」「ハンマークラヴィーア」などが有名です。他は他人が題を付けたものもあります。逆にベートーベン自身が題名を付けたと言われているものの、現在では使われず番号で呼ばれるものもあります。

また、3楽章からは最後まで切れ目なく演奏されます。これは最後に向かって盛り上げていく等の演出があるということです。5番「運命」も同じで劇的な効果があります。これは後のシベリウスの2番交響曲やショスタコーヴィチの交響曲などでも見られます。

さらに曲の作り方そのものまで共通点があります。

自然を歌う!ベートーヴェンの物語を味わおう!



この動画はデトロイト交響楽団の演奏で大変すばらしいオーケストラです。トランペットがピストン楽器を使っているところが特徴的です

 1楽章・田舎に到着したときの愉快な感情の目覚め


1楽章の1番最初で、前奏もなくいきなり旋律の1フレーズを歌いだします。そしてすぐフェルマータ(一旦音楽をストップ)します。


そしてさらにこの旋律を様々に変奏、展開させていきます。(この変奏曲の技術はベートーヴェンの得意とした所です)これは5番「運命」と全く同じ手法です。ジャジャジャジャーン!!!(静止)ジャジャジャジャーン・・・と同じです。この手法は他の交響曲には見られません。

この1楽章ではまだ自然描写はなく、田舎に着いた時のワクワク感の音楽です。青春18きっぷで遠出して秘境駅に途中下車した時のあの気分です。青春18きっぷの旅楽しいですよ^ ^

 2楽章・小川のほとりの情景

木管楽器が活躍する曲です。小川の流れが弦楽器で表現されます。さまざまな自然描写に木管楽器が巧みに使われています。最後の方に鳥の鳴き声が木管楽器によって模倣されます。(動画の23:21あたりから)この楽章はあたかも、木管楽器協奏曲の様です。

 3楽章・田舎の人々の楽しい集い

先に出てきたブリューゲルの「農民の踊り」そのものです。ホルンが大活躍です。

 4楽章・雷雨、嵐

4楽章は切れ目なく、突然雲行きが怪しくなり、そして嵐と雷の音楽です!ヴィバルディの「四季」にも似た描写がありますがさらに激しいです。古典派にはあまり見られない大胆な不協和音も使われています。ここからトロンボーンも加わります。ちなみにティンパニはこの楽章のみ演奏します。あとは全部休み。もっと出番が欲しい!

この楽章の描写はベートーヴェンらしい激しい音楽です。雷の描写が素晴らしく、その激しさは嵐を超えて世界の終わりだ、とフランスの作曲家ベルリオーズは言いました。「嵐ってレベルじゃねぇぞ!」

 5楽章・牧歌 嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち


そして嵐が遠ざかっていき、感動的な晴れ渡った自然の讃歌。太陽が眩しく射して、遠くまで広がる大地や、嵐の後の綺麗な輝く雲を見ながら、キラキラと大空を舞って昇っていくような、そんな感動があります。終わりの少し前の盛り上がりでヴァイオリンが高音で音を刻み、全管楽器がテーマを吹くところはブルックナーを思わせます。(動画の41:14から)

そして最後はホルンが空に消え入るように主題を奏で終わります。眠りそうなティンパニ奏者を横目に見ながら・・・

間違いなく、ベートーヴェンの全作品の中でも、最も感動する曲の一つです。この終楽章は第9交響曲と同じ位の大きな感動があります!

名盤紹介

大変な名作なので、第9交響曲同様手に入るCDはどれも素晴らしい名盤ばかりです。その中で印象に残ったものを紹介しましょう。check it out!

自然描写が最もすばらしい現代のウィーンフィル

サイモン・ラトル/ウィーンフィル
ベートーヴェン:交響曲全集

サイモン・ラトルは今までにはないタイプの指揮者です。音のバランスやテンポの揺れなどなど、とても個性的な音楽を作ります。ベルリンフィルでもそうですが、このウィーンフィルでの演奏は楽器一つ一つが鮮明に聞こえて来ます。また、1楽章の最初の旋律の歌わせ方で、絶妙なところにクレシェンドをかけたりするやり方などは他の指揮者にはない特徴です。

3楽章がとても面白い演奏で、最初は地味な柔らかい感じの音で進みますが、次第に盛り上がって、気付いたら音形も強めのスタッカートになっていて村人が徐々に増えてきて盛り上がる様子がハッキリわかる演奏です。そして最高潮になったところで突然、村人達が雲行きを見上げる、そんな情景が目に浮かぶようです。これは素晴らしい所です!

また終楽章も、ウィーンフィルのきらめくような弦楽器が素晴らしいです。昔に比べてウィーンフィルの音に個性が無くなったと言われることもありますが、まだまだそんなことはないです。

ドレスデンにこの男あり!

サー・コリン・デイビス/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
ベートーヴェン:交響曲第6番・レオノ-レ第3番

この田園はホルンの見せ場がたくさんあります。盤によって演奏にもっとも違いが目立つのがホルンパートといっても過言ではありません。数ある名盤の中で特にホルンの素晴らしさでこの演奏がダントツだと思います。

3楽章の軽やかさ、5楽章の最初のホルンソロ。この柔らかくて遠くまで響くような、テノールのように艶やかで特徴的なビブラートをかける主席ホルン奏者。その人の名は「ペーター・ダム」!ソロでは神がかりな演奏で、オーケストラでは比類ないアンサンブルを聴かせてくれます。

またホルンのペーター・ダムばかりでなく、とくに5楽章が逸品です。所々にトランペットとホルンがファンファーレのようなフレーズを弦楽器と交互に歌うのですが、(動画の35:20や39:25あたり)ここの表現はこの盤が最も感動的です。

全体にとにかく音が素晴らしいです。コリン・デイビスという指揮者はもっと評価されていい指揮者だと私は強く思います。

謎の覆面オーケストラ、コロンビア交響楽団

ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団
ベートーヴェン : 交響曲第2番、第6番「田園」

ブルーノ・ワルターが晩年にコロンビア交響楽団と残したステレオ録音の数々はどれも演奏、録音共に大変素晴らしいものばかりです。ところで、このコロンビア交響楽団とはどんな楽団なのでしょう?コロンビアというと思い浮かぶのは陽気な南米の国、コーヒーの産地、なんか黒い服とサングラスをかけたコワイ人たちがいる、等等。

オーケストラのイメージとはちょっと違うイメージがありますが、コロンビア共和国にある楽団ではなくコロンビアレコードというメーカーのオーケストラです。今はSONYの傘下になりました。ワルター以外にもストラヴィンスキーが自作の曲をこのオケで録音しており、ある意味貴重な録音になっています。

おそらくニューヨークフィルやクリーヴランド管弦楽団などのメンバーをレコード録音のために編成した覆面オーケストラのようです。実際ジョージ・セルという指揮者がクリーヴランド管弦楽団で録音しましたが版権等の関係でコロンビア交響楽団として残しています。ワルターもニューヨークフィルでありながら覆面オケとして残しているものもあります。実際聴いていても、かなり技術のあるオケです。
千秋真一&R☆Sオーケストラみたいな感じです。

名盤として昔から有名ですが、演奏の特徴は1楽章の歌い方や音の処理にあります。出だしの主題からハッとするような明確な音で、フレーズの終わりの音の処理も短めに切ります。これがとても活き活きした印象を受けます。これがワルターの良さです。

隙のない最強のアンサンブル

ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団
ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」、「レオノーレ」序曲第3番

それにしてもアメリカという国は何でも世界一ですね。このシカゴ交響楽団のアンサンブルの神がかりぶりはここでも発揮されています。先ほどのサー・コリン・デイビス/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団での5楽章の管楽器のファンファーレはこの盤でもしっかり聞こえてきます。しかも上手い!!さすがシカゴです。

上で動画の再生時刻を載せて紹介した箇所です)

楽譜は簡単ですがヴァイオリンと呼応するようなこのファンファーレは、トランペットとトロンボーン奏者にとって、この曲唯一の聞かせどころです!!この部分が良く聞こえてくるのは、今まで聴いた中ではこのショルティとコリン・デイビスの演奏のみの様です。

また3楽章のホルンセクションは、このシカゴ交響楽団もっとも完璧です。

ここが違うよ。古楽器ベートーヴェン

フランス・ブリュッヘン/18世紀オーケストラ
ベートーヴェン:交響曲第6番

フランス・ブリュッヘンはバロックリコーダー奏者として有名ですね。18世紀オーケストラは、彼が私財を投じて世界中から古楽器奏者を集めて結成された臨時楽団のようなものです。さっきのコロンビア交響楽団のような感じです。

演奏は弦楽器はガット弦という自然の素材を使ったものを使っています。ガット弦は羊の腸が原料です。そしてノンビブラートで演奏します。またピッチも現代の約442Hzではなく当時の約430Hz位の低いピッチなので印象が違います。

ブリュッヘンの素晴らしい点は、ただ古楽器にこだわっただけでなく、演奏も大胆にテンポを変えたり、思い切った熱い演奏を聴かせてくれます。

ウィーンフィル全盛期と言われた時代

日本で大フィーバー(死語)
カール・ベーム/ウィーンフィル
ベートーヴェン:田園/シューベルト:交響曲第5番

ウィーンフィルは世界中のオーケストラと比べ、ちょっと違うオケです。独自の伝統を重んじており、楽団一人一人のプライドは非常に高く、指揮者との相性によって、演奏にかなりの差が出てきます。団員と上手くいかない指揮者は逆に団員からダメ出しを受ける等、大変だったようです。

とくに全盛期と言われたカール・ベームが指揮者だった60~70年代は、日本では大変な人気でした。

ゲオルグ・ショルティもかなり苦労したそうです。ウィーンフィルとの演奏で最も楽しかったのは帰りの飛行機に乗るために空港へ行く時だったとか。

ウィーンフィルの特徴ですが、特に弦楽器とホルンが顕著です。ホルンはウィンナホルンというピストンのホルンで、はっきりした固めの音が特徴です。これはカール・べームの指揮でよくわかります。

温水プールで演奏!?
ハンス・シュミット・イッセルシュテット/ウィーンフィル
ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」&第6番「田園」

また弦楽器の音色は不思議で、とくに高価な楽器でもなく、団員の自前の楽器ではなく楽団の備品の楽器なのだそうです。イッセルシュテットの盤で弦の特徴がわかると思います。この盤が録音されたのは「ウィーンゾフィエンザール」というプール施設の、プールの上に床を作って、その上で録音されたのです。そのせいか響きがとてもいいです。

ベートーヴェン偶数交響曲、奇数交響曲

ドイツ人と日本人は似ている点があるようで、何かをグループに分類したりするのが好きなようです。よく言われるのが、9曲ある交響曲の奇数番号は激しい曲で、偶数番号の曲は穏やかな曲という説です。

私が思うに曲の作り方や、雰囲気や楽譜の特徴などからどちらかと言うと、1と2、3と4、5と6、7と8、そして別格的なところで9番、という分類がふさわしいと思っています。

1と2は初期の実験的なオーケストレーションが見られて、どちらかと言うと初期のピアノソナタのような曲の感じがします。

3と4で大きくソナタ形式を自由に、劇的な演出を施しながらベートーヴェンらしい激しさがみられます。

5と6は「精神の闘い」と「自然への賛美」を音楽で表現し、ベートーヴェンの顔として決定付けた大傑作です。ちなみに運命と田園は同時に初演されました。そのとき番号は逆で、5番が田園で6番が運命と名付けられていたようです。

7と8はリズムと音楽の可能性を追い求めた二つの傑作です。ベートーヴェンはメトロノームのテンポの正確さに魅せられていたようで、特に8番交響曲はまさにメトロノームが必要不可欠のような刻みの多い曲で、一見軽い曲のように見えますが、非常な難易度の曲と思います。

そして有名な7番。まさにリズムを究極まで昇華させてさらにその上に分厚いオーケストレーションを乗せた大曲です。

そして第9番ですべてを盛り込んだ。

こんな感じで私はベートーヴェンの交響曲を捉えています。

ちなみに、交響曲10番にも着手して未完に終わっているようです。いまではトンデモ曲的な扱いを受けていますが、実はゲーテの思想を音楽にしようとしていたらしく、これは後のマーラーの交響曲8番「千人の交響曲」という超大作につながったもの、と私は見ています。これはいつか機会があればお話しましょう。乞うご期待です!

ベートーヴェンはどんな人?

ベートーヴェンというと、こんな容姿のイメージがあると思います。髪はボサボサで黒くて長いコートを着て、しかめ面でそれこそ田園をウロウロ散歩している気難しい、ホームレスっぽい怪しい男・・・・

彼の弟子でピアノの(地獄の)教則本で知られるツェルニーは師匠であるベートーヴェンを「無人島に放置してもしぶとく生きていそうwww」(ロビンクルーソーという架空の冒険家の様という意味)と言っています。今の時代、私たちが思い浮かぶイメージもそんな感じですね。

しかし、本当にそのような人だったのか?近年では実はキチンと身なりも整えていてオシャレもしていたのではないかといわれています。ベートーヴェン自身は自由な考えの持ち主でしたが、当時の政治家にはそれは厄介な存在で、意図的にそのような変人に仕立てられたのではないか、とも言われています。

いずれにしても、髪がボサボサ=芸術家、みたいなイメージを焼き付けたのは確かですね^^

この記事が完成目前の所で外を見たら、台風が去って空から一筋の光がさして来て、本当に5楽章が始まりそうです。さて、これから青春18きっぷで大阪までぶらり途中下車の旅に出かけますか^^途中の車窓からの田園風景を見ながら、目的はブリューゲル展へ!



ああ、でも今回は「バベルの塔」で農民シリーズは展示されないのですね、残念!