もし、約200年前のトランペット吹きのオジサンがタイムマシンで現代にタイムスリップしてきたら、開口一番こう言うでしょう。

「うわッ!何この短い楽器!しかも筒と管が3つ付いてるし!未来のラッパは小さい蒸気機関で音出すのかよ!どんだけSFだよ!神よ!」(当時蒸気機関は最先端技術でした)

トランペットのピストンは1800年代初期から徐々に開発されて現在の形になりました。産業革命のころです。このタイムスリップしてきたオジサンのころのトランペットはピストンが無く全て口で音を変えていたのです。一つの調性しか出せない、長いトランペットを使っていたのです。

もうある程度トランペットを吹いている人はわかると思いますが、ピストンを押さないで音階を吹こうとすると、下のドの次にレではなくソが出ます。次に上のド、次がミ、ソ、シ♭、ド。ここからやっとドレミ・・・と、かろうじて順番に音階が出ますが、もうけっこう高い音で苦しいですね・・・これは自然倍音と呼ばれています。

この時代のラッパ吹きは、メイナード・ファーガソンやエリック宮城顔負けのハイトーンの演奏技術を持っていました。しかしそれは構造上非常に高い音でしか音楽的なことは出来なかった、しかも高音域を出せる限られた人しか出来ない楽器だったとも言えるのです。

なので、このピストンの開発は「音階が出来るようになった!」というだけにもかかわらず、非常に大きな進歩だったのです。

■ 目次

演奏するために必要不可欠なもの

どの楽器でも演奏するために必ず必要なことが二つあります。一つはその楽器を正しい音で出すこと。もうひとつは音階です。それもドレミファソラシドだけではなく、長短含めて全ての調で、です!さらに半音階も!その土台ができた上で音楽表現などが必要になってきます。どのような難曲でもきちんと音階ができれば対応できるのです。

今回はその音階の練習方法や注意すべき点について説明していきましょう。

鍛錬あるのみ

「音階はどうやって練習するの?」という質問が出てくると思います。それに対する答えはひとつ、「毎日欠かさずやるべし!!」です!やりかた云々よりも、毎日練習メニューにいれて、かかさず続けることが第一です。地味な練習を重ねてこそ、最後に素晴らしい演奏ができるのです!

千日の稽古を鍛とし
万日の稽古を錬とす

        宮本武蔵

と、先日ドンキホーテで買ったペンケースに書いてありました。

サンスター 偉人のことば ペンケース 宮本武蔵 S1402510

でも安心して下さい。千日も一万日もかかりません。そんなにかかったら誰もトランペットをやりません。最初は中々出来ませんが一ヶ月、二ヶ月と続けていればだいぶ出来るようになっているでしょう。その頃には吹ける幅も広がって、練習が楽しくなっています!

トランペットの代表的な教則本

練習する音階のパターンはどれでも大丈夫です。小学校の頃に使った音楽の教科書でも何でもOKですが、トランペットは最初のうちはどうしても高い音が難しいので、やはりトランペット用の教本をお勧めします。今回は世界中で必ず使われる教本を二冊ご紹介します。この二冊はこの先ずっと使うことになるので是非入手して、これで練習していくことを強くお勧めします。

アーバン金管教則本 (ISM Collection International S)



アーバンの教則本は世界的に使われているものです。ほぼ全てのトランペット奏者は必ずこれを学習します。トランペット、コルネットに必要とされる全ての技術のための練習曲が、この一冊に詰まっています。

アーバン音階練習

このアーバンの教本は電話帳くらいの厚さがあります^^;この中の「音階の練習」で練習します。この項の最初にアーバンの説明があります。必ず内容を読んでそれを守りましょう。ピストンはしっかり押して。半音階などは速くなりすぎないように、はじめはゆっくりメトロノームを使って練習するように、ということが書かれています。

ポイントは

① まずは全ての長音階から。各調6パターンありますがキツいなら全部やる必要なし。ただし全部の調をやる。

② 次に短音階です。教本通りでOKですが可能であれば自然短音階、和声的短音階、旋律的短音階も。短調は面倒くさいのです;;

③ 半音階では急がないように、テンポに合うように、ゆっくりのテンポから徐々に速く。

④ 必ずメトロノームを使う。

⑤ 必ず毎回練習する。習慣にしちゃう!

指の運指については、必ず教本の最初に載っている運指でやりましょう。とくに♯や♭が付く音に、違う指使いでも出せるものがありますが音程が不安定になります。

初めは覚えるのが大変かもしれませんが、運指も毎日の練習で自然に身についてきます。覚えるまでそれほど時間はかかりません。なぜなら、押すところは3つしかありませんので^^

3番管トリガーの使い方


ここで3番管の使い方を説明します。トランペットは構造上どうしてもド♯とレの音の音程が高めになります。左手の薬指か中指を指輪のようなリングに引っ掛けしっかり抜きましょう。ここはよく動くようにオイルなどでお手入れをしましょう。

逆に最低音のソとファ♯は抜かないように。つい同じ指のポジションなので抜いてしまいがちです。

クラーク: トランペットのための技巧練習曲/カール・フィッシャー社



この教則本はクラークという偉大なコルネット奏者が、自身の演奏活動と失敗や成功の経験をもとに書かれた素晴らしい教本です。世界的な奏者もこれを毎日練習しています。これはもう毎日一生練習すべき教本です。一見指の練習ですが、息の使い方の練習でもあります。

前回書いた、「ロングトーンの練習」の記事を読んでくださった私の熱狂的なファンの方はご存知と思いますが、このような指をたくさん動かす練習曲であっても基本的にはロングトーンをしているように吹きます。

このテクニカルスタディは、ファーストスタディは半音階、セカンドスタディは音階のような練習曲、サードスタディは簡単なアルペジオの練習曲です。それ以降もまだたくさんありますが、慣れないうち出来るところまで、毎日さらうようにしましょう。

この教則本のはじめに、クラーク自身が書いた注意書きがあります。これも必ず守って練習しないと意味がありません。おおよそこのようなことが書かれています。

① 小さい音で練習する。
② 唇は力を入れすぎない。やわらかい状態で吹く。
③ 一息で8回から16回繰り返せるようにする。
④ 最初はレガートで。慣れてきたら軽いタンギングで。ダブルタンギング、トリプルタンギングも。

(ダブルタンギング、トリプルタンギングについてはまたの機会に説明しましょう)

音大生の人で、説明をよく読まずにフォルテでガンガン吹いている人がたまにいますが、これだとこの練習の意味が無くなってしまいます。何か他の意図があるならいいのですが・・・

楽譜通りにppで吹かないと息が持ちません。この教則本は息のコントロールの練習でもあるのです。

他にも目的に応じた教則本が星の数ほどありますが、楽譜上は大体同じパターンです。あれこれ浮気せず、必要に応じた教則本数点に絞ってしっかり練習しましょう。音階練習の際は自分に合ったパターンを決めて日々練習しましょう。

音階は、頭で考えなくても指が勝手に動くようになる事が大切です。

ピストンは命です

どんなに上手な人でもピストンが引っかかって動かなくなったら、もうどうしようもありません。これが本番中だったら・・・想像しただけでも恐ろしいです。先ほど言った3番管とピストンはきちんと動くように日々手入れをしましょう。

特に新しい楽器だと、ピストンの隙間にわずかなゴミが入っただけで引っかかって動かなくなります。まめに拭いてゴミを取ってからオイルを点しましょう。道具を大切にすることも上手い下手を決める要素です!!


指筋トレ??

指が上手く回らなかったり(特に薬指が!)、トランペットを持っていると肩が疲れたりしませんか?そんな時オススメなのは、楽器を持つ前にハンドグリップなどで少し筋トレしてから持つと、指も肩もとても軽く感じます。回数は人によって違いますが、少し疲れるくらいでいいと思います。

楽器を持っていないときに指だけの練習も出来ます。合奏で他のパートが捕まっているときとか、薬指だけをひたすらピストンを押して鍛えることも出来ます。最初はとても疲れますが、一回慣れて鍛えられてしまえばずっと維持できます。


音楽のテクニシャン(死語)とは?

世界中の音楽はこの西洋の12音の音階で全て再現できると私は思います。1音の中に何個も音が分かれている民族音楽は別にして。全ての調性をキチンと出来るようになればどんな難しい楽譜が来てもきっと簡単に感じられると思います。音楽の「テクニック・技術」と言えます。

逆に言えば音階が出来なければ何の音楽も出来ないのです。音楽が出来なければもちろん表現も出来るはずはありません。

トランペットとはどうやって音を出すのか?トランペットはどうやって音階をやるのか?

この二つがトランペット吹きの一生追い求める道だと思います。


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