「ラ・カンパネラ」はピアニストも演奏を避けるほどの超難曲です。
超難曲とはいえ、ピアニストなら弾けないということはありません。

私達からすれば充分過ぎるほど弾けているように見えても、自身の演奏に納得がいっていなかったり、そもそもこの曲が好きではなかったりするため、レパートリーに入れないということです。

ピアニストにもいろいろなタイプがあり、メロディックな曲が得意なピアニストもいれば、テクニック的な曲が得意なピアニストもいます。

他にも、得意な作曲家の作品ばかりを弾く偏った選曲をするピアニストもいれば、逆にどの作曲家の作品も弾くオールマイティーなピアニストもいます。

「ラ・カンパネラ」をレパートリーにしているピアニスト達はテクニック的な曲がとても得意な方達が多いです。

この曲はピアノのある機能が向上したことにより、それまでは出来なかった演奏が可能になったため、作曲することが出来ました。

前回、リスト自身については書かせて頂きましたので、今回はピアノの発展について触れながら難易度と弾き方のコツをお教えします。

ピアノの発展は、ただ音域が広がっただけじゃないんです!!


1700年頃に作られた「グラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」(通称、ピアノフォルテ)は、音の強弱が演奏者のタッチによってコントロールできるという、当時としては画期的な楽器でした。

ピアノフォルテは、イタリア(フィレンツェ)のメディチ家お抱え楽器製作家だったクリストフォリが製作しました。この楽器が現在のピアノの原型と言われています。

初めから現在のように広い音域があった訳ではないということは、皆さんご存知でしょうか。当初は狭かった音域は、次第に広がっていき、現在の88鍵になりました。

時代による音域の変遷を作曲家と照らし合わせてご紹介します。

★作曲家と鍵盤の音域★

バッハ(18C前半)→54鍵 

モーツァルト(18C後半)→61鍵

ベートーヴェン(19C初め)→68鍵 

ショパン(19C前半)→79鍵 

リスト(19C中頃)→85鍵 

ドビュッシー(19C末)→現在と同じ88鍵



ピアノの発展は音域が広がっただけでありません。クリストフォリの発明を基にそのアクション(発音構造)も時代とともに発展し、現在のピアノの構造に至りました。

ピアノのアクションには、元々ウィーン式とイギリス式の2種類がありました。

●ウィーン式
ウィーン式は「はね上げ式」と呼ばれ、軽やかなタッチと繊細な音色で、しなやかに歌わせることができるピアノでした。

モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマンなどの作曲家がウィーン式アクションを使用したピアノを愛用しました。

●イギリス式
イギリス式は「突き上げ式」と呼ばれ、ウィーン式とは対照的にタッチも響きも重厚でした。

イギリス式のピアノの発展は、ショパンやリストの作品に大きな影響を与えました。


リストのような超絶技巧を得意とするピアニスト達が現れると、聴き応えのある演奏にするため、より大きな音量が出せるピアノが求められるようになりました。

そのような要望を受け楽器製作者たちは、ハンマーを大きくしたり、張力の増した弦を支えるために鋳物を導入したりとピアニストの望む楽器を次々と作り出していきました。

ウィーン式は構造上の限界があり、そのような発展にはついていけず、20C初め頃に事実上消滅してしまいます。

そのため、特別な機会がない限り、現在私たちが手にするピアノはイギリス式アクションによるものだけになってしまいました。

残念ですよね!しなやかに歌わせることができる、ウィーン式アクションのピアノの音色を感じてみたかったですね!!

リストの演奏は激しかったようで、リサイタル時にハンマーが折れたり、弦が切れたりしていたため、あらかじめ何台ものピアノを用意していたそうなんです。

ウィーン式アクションにも関わらず唯一、ベーゼンドルファーのピアノだけが無事だったそうです。

そのことがきっかけとなり、ベーゼンドルファーは壊れにくいピアノを作るメーカーとして一躍有名になったそうです。(ベーゼンドルファーは元々ウィーン式アクションでピアノを製作していましたが、のちにイギリス式に転向したため、現在も残っています。)

ハンマーが折れるって…リストは、どれだけ叩いて弾いていたんでしょう??

リストの家はピアノだらけ!?毎年新しいピアノを貰っていた!!


リストの家にはピアノ製作者から贈られたピアノがたくさん置いてあり、まるでピアノ売り場のようだったそうです。1度だけ贈られるのではなく、毎年新品のピアノに取り換えに来たそうです。引き取ったピアノは「リスト使用」ということで、とても高く売れたんだそうですよ。

いろんなピアノを弾き放題!!いいですね~。しかも、毎年新しいピアノですよ!!羨ましい…

たくさんのピアノを所有していたリストですが、中でもエラールのピアノとの関係はとても密接でした。

エラールによる「ダブル・エスケープメント」というアクションの発明は、それ以前のアクションよりも素早く連打することを可能にしました。

このアクションの発明がなければ、現在演奏されている「ラ・カンパネラ」は作曲されていませんでした。素早い連打が演奏可能になったからこそ、この名曲が生まれたのです。

エラールのピアノと共にリストは、ピアノという楽器の技巧の可能性を追求しました。

リストの頃までは、作曲家兼ピアニストというのが普通でした。

しかしそれ以降は、多くの作曲家がリストと同じようにピアノの技巧の追求を行ったので、ピアニスト達はそれまで以上にテクニックの向上が要求され、作曲家とピアニストを兼任することが難しくなりました。

そのため、次第に分業が進んでいきました。

実は、現在演奏されている「ラ・カンパネラ」より難しい版が存在する!


リストの「ラ・カンパネラ」はパガニーニのヴァイオリン協奏曲第2番第3楽章<鐘>の主題を研究し、それを基にして作曲されたものです。

「ラ・カンパネラ」とは、日本語で「鐘」という意味です。

リストは「ラ・カンパネラ」というタイトルがついたものを4曲作っています。

●1832年 「ラ・カンパネラの主題による華麗なる大幻想曲」
  →即興性が強く、わざと難しくしようとしている。演奏されることはない。

●1838年 「パガニーニによる超絶技巧練習曲集第3番」
  →難しすぎるため、この版の「ラ・カンパネラ」をCDに録音しているピアニストは、数人。

●1845年 「パガニーニのラ・カンパネラとヴェニスの謝肉祭の主題による大幻想曲」
  →演奏されることはない。

●1851年 「パガニーニによる大練習曲第3番」
  →1838年に作曲された超絶技巧練習曲集を改訂したもの。

現在私達が「ラ・カンパネラ」と呼んでいる曲は、1851年に作曲されたもので、「パガニーニ大練習曲第3番」のことを指しています。

改訂される前の「ラ・カンパネラ」は、現在よく演奏されているものよりも圧倒的に難しいです。聴くと驚きますよ!

現在よく演奏されているものは、まだマシだったなんてビックリですよね!!

「ラ・カンパネラ」の難易度はどれくらい?

難易度はもう言うまでもないと思いますが…
超を何個つけても足りないくらいの超上級レベルです!!

ピアノを習いに来られたお子さんや大人の方がいつか弾きたい曲にこの曲を挙げられることが、たまにあります。

今までの人生のほとんどをピアノと過ごして来た私ですら、まともに弾けないのに…何を言ってるんだ!!と思いますが、それだけ迫力があって、魅力的な曲だということは、よく分かります。

音をかなり抜いて本当に簡単に編曲したものなら弾けると思いますが、完全版を弾くのは、はっきり言って無理です。残念ですが、諦めて下さい!

ピアニストだって避けるような曲ですからね…。

リストの身長は、180cm以上で指も腕も長かったそうです。彼の手も、もちろん大きく、広げると10度(ド~1オクターブ上のドの3度上のミまで)が余裕で弾けたそうです。それ程の手の大きさと指の長さがあれば、跳躍の多いこの曲も楽々弾きこなしたんでしょうね。

このような理由から、「ラ・カンパネラ」を弾くには手が大きく、指や腕が長い人が有利です。

もちろん、ただ指や腕が長いから弾けるというのではなく、そのような素質のある人が相当な覚悟でピアノ道を極めた結果、弾けるようになるということです。

どこが難しい??超難曲の弾き方のコツ!

どこが難しいのかは、もうたくさんあり過ぎなのですが…弾き方のコツを5つにしぼって説明していきますね。

手の大きさや手首のしなやかさは人によって違うので、必ずしもこの弾き方や練習の仕方がベストではないかもしれませんが、参考になさって下さい。

≪手首をとにかく柔軟に!!≫


フェルマータの次の小節の部分は、5の指の方ばかりに気を取られてはいけません。メロディーは1の指側(右手の上向きの8分音符)にあります。(5の指側にメロディーが来る箇所もあります。)

5の指の方にずっと出てくるD♯は、しっかり弾かなくても何となくで大丈夫です。でも外さないようによく練習しましょう。

ただ指だけで弾くのではなく、手首を少しひねるようにして手首で弾くような弾き方をマスターしましょう。

この部分を手首で弾くには、指をどこに置くかがポイントになります。1の指と5の指を鍵盤に置いたときに、位置が真横になると手首をあまりひねることが出来ません。

手首の動きをスムーズにするには、5の指を少しピアノの蓋側で弾くようにし、1の指と5の指の弾く位置を少し変えるんです。そうすると手首をひねりやすくなり、動きが良くなると思いますので、試してみて下さい。

≪跳躍の仕方≫

この曲の場合、跳躍する距離がかなりあるので真横に飛ぶよりも、もっと勢いよく飛べる弾き方である、弧を描くような弾き方の方が良いと思います。

スキーのジャンプのように、飛ぶ前の音でしっかり踏み込んで勢いよく飛ぶようにしてみましょう。その時に上に飛ぶと時間ロスになります。次の音の方へ斜めに飛んで行くようにしましょう。

距離がかなりある跳躍の箇所は、何度も何度も練習をして感覚を掴むしかありません。

手を見なくても飛べるように感覚で弾けるようになれば外しにくくなります。練習あるのみです!

≪トリル≫


いろんな指でトリルを弾かないといけませんね。この部分は、それだけでなくメロディーも弾かなくてはいけません。

まずは、トリルの練習をしましょう。トリルを1つずつ指を上げて弾いていては、すぐに疲れてしまいます。

こんな練習をしてみてはいかがでしょうか。

●2つの音を1セットにして弾く
1つ目の音は指を使って上から落とすように弾きます。
次の音は勢い余って指が当たってしまった程度で弾きます。

●4つの音を1セットにして弾く
2つを1セットが出来るようになったら、4つを1セットにして弾いてみましょう。
同じように1つ目の音はしっかり弾きます。残りの3つは1つ目でしっかり弾いた分の余力で弾きます。
 
指をほとんど動かさないようにしましょう。
最初はゆっくり練習しましょう。出来るようになったら速く弾いてみて下さい。

●なるべく多くトリルを弾く
楽譜と同じ回数だけ弾く練習をするのではなく、上で説明した弾き方でとにかくたくさん弾いて下さい。たくさんトリルを弾くと楽に弾けるコツが分かってくると思います。

≪オクターブ≫


オクターブの練習方法については、ショパン「英雄ポロネーズ」の記事で書かせて頂いていますので、参考にして下さい。

≪我慢する≫

最初からガツガツ弾くと絶対に最後まで弾けません。
この曲の強弱記号をよく見て下さい。フォルテの指示が出るのは、最後の2ページです。それまでは軽くて良いのです。

最後の2ページまでに力を使ってしまわないように、我慢しましょう。

難しいと思うと力が入ってしまいますが、難しいからこそ、力を抜くんです!
力むと指と手首の動きが悪くなります。動きが悪くなると、ミスが増えてしまいます。

それまで弾けていたのに急に弾きにくくなった時は、たいてい力みが原因です。

この曲の場合、もしかしたら納得がいくように弾けないかもしれません。しかし、その努力は絶対ムダにはなりません。

この曲を一生懸命練習すれば、皆さんが今までに弾いて来られた曲が前よりも断然弾きやすくなっていると思います。

テクニック的に難しい曲は、作曲家からピアノを弾く者への挑戦状です。負けないぞ!という思いで挑んでいきましょう!!

まとめ

◆「ラ・カンパネラ」はピアニストも演奏を避ける程の超難曲
◆ピアノのアクションには、元々ウィーン式とイギリス式の2種類があった
◆現在のピアノはイギリス式アクション
◆「ダブル・エスケープメント」というアクションがなければ、「ラ・カンパネラ」は作曲されなかった
◆現在「ラ・カンパネラ」と呼んでいるものは、1851年に作曲されたもの
◆弾き方のコツは5つ
≪手首をとにかく柔軟に!!≫
≪跳躍の仕方≫
≪トリル≫
≪オクターブ≫
≪我慢する≫


「ラ・カンパネラ」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。アウゲナー社から出版された楽譜です。

リスト「パガニーニによる大練習曲(パガニーニ大練習曲集)S.141」の記事一覧