シューマンと言えば、「トロイメライ」。
シューマンが作曲した曲の中で一番有名ですよね。でも、この他にも素敵な曲はたくさんあるんですよ!

クラシックに詳しい人はシューマンの良さを知っていても、一般にはあまり知られていないので、とても残念です。

シューマンの代表曲である「トロイメライ」は、とても優しい曲ですよね。
こんなに優しい曲を作曲したシューマンですが、実は波瀾万丈な一生を送っています。
もっと言えば、同じ時期のロマン派の作曲家よりもいろんなことを経験した人で、音楽にもそれが表れていると思います。

彼は音楽が本当に好きな人でした。
同じ時期に活躍した人達とは少し違った形で音楽の道へ進んでいます。彼の生い立ちや家庭環境は、その後に大きな影響を及ぼして行きます。

今回はシューマンがどのような道を歩んだのかにも触れながら、「トロイメライ」の難易度と弾き方のコツをお教えします。

法律家になっていたかも?音楽の道に進むと決心するまでには紆余曲折。


シューマンは、ドイツのツヴィカウで書籍商人をしていた父フリードリヒと母ヨハンナの5番目の子として生まれました。裕福な家に生まれたシューマンは、小さい頃から音楽に興味を持ち、7歳からピアノを習い、11歳で作曲を始めました。

ここまでは他の作曲家達とあまり変わりませんが、ここからが違います。

シューマンが16歳の時、病気を思い悩んだお姉さんが自殺してしまいます。
このお姉さんの自殺が引き金となり、お姉さんが亡くなった数週間後、父も亡くなってしまいます。
この2人の死は、シューマンに深い悲しみを与えました。そして、その後の彼の性格や考え方にも影響を与えました。

父は音楽に寛容でしたが、母は違いました。
母ヨハンナはとても現実的な考え方をする人でした。「音楽はパンにならない芸術」と考え、お金にならないことをするのではなく、ちゃんとした仕事につけるように、大学で法律を学ぶように助言しました。

シューマンもそれに従い、法律を学ぼうとライプツィヒ大学に入学します。
しかし、法律にはあまり関心がありませんでした。
法律には関心がありませんでしたが、哲学に興味を持ち、カントなどを研究するようになります。

さすが、書籍商人の息子!!哲学や文学にはとても興味を持ちました。
このことは、のちに仕事にもつながって行きます。

この大学時代にシューマンは、音楽の道を完全に諦めていたわけではありませんでした。
ピアノを手に入れ、大学の仲間と演奏をして音楽を楽しんでいました。

再び音楽の道を進もうと決心するのは、名ヴァイオリニスト、パガニーニの演奏を聴いたことがきっかけでした。演奏を聴いた後、音楽の道に進むこと許してもらおうと母に手紙を出しています。

ここからまた彼の音楽人生が始まります。
他の著名な作曲家やピアニストは、小さい時から素晴らしい才能を持ち、周りから天才と呼ばれ、一流の先生に習い、たくさんの経験を積んで、音楽の道を進んだ人がほとんどですが、シューマンは違うというのが分かって頂けたと思います。

一度、道を外れてしまったけど、どうしても諦められなかった音楽。
シューマンは、本当に音楽が好きだったんです!母から許しをもらえた時は、これでやっとおもいっきり音楽を学ぶことが出来る!!と嬉しかったと思います。

しかし、ここから先にはたくさんの困難が待っていました。
とても可哀想なのですが、なかなか上手く行かないのがシューマンの人生なんですよね。
たくさんの困難なことを経験したからこそ、他の作曲家とは違った「深み」みたいなものをシューマンの音楽から感じるのかもしれません。

自身のピアノの先生を訴えることに…なぜそんな事に?裁判の行方は…


音楽の道に再び進むことを決心したシューマンは、ライプツィヒで当時有名だったピアノ教師、ヴィーク家に住み込んでピアニストになる為、一生懸命練習します。

ヴィークの娘クララは、ピアニストとしての才能があり、シューマンよりもだいぶ年下でしたが、すでに演奏活動もしていました。
父ヴィークは、娘を一流ピアニストに育て上げることに全力を注ぎ、演奏旅行について行くこともあった為、その間シューマンはレッスンをしてもらえず、不満に思っていたそうです。

シューマンは指を鍛える為に独自に考案した器具を使ったとも言われており、練習のしすぎもあって指を痛めてしまい、ピアニストの道を諦めなければなりませんでした。そして、ピアニストになる為の練習と同時に行っていた、作曲と文筆活動の方に専念するようになりました。

ヴィーク家に住み込みで修行していたシューマンとヴィークの娘クララは、一緒にいる内に次第にお互いを意識し、惹かれあって行きます。

そのことに気付いた、父のヴィークは「ピアニスト崩れの売れない作曲家」に娘を奪われまいと、ありとあらゆる妨害と嫌がらせをします。

クララとの結婚を望んでいたシューマンですが、許してもらえるはずがなく、困り果てます。
結婚をする為、ヴィークとの和解を望んでいたシューマンでしたが叶わず、訴訟の手続きを取ります。ヴィークの嫌がらせは、とても酷いものだったので名誉棄損でも訴え、勝訴しました。

そうした困難を乗り越え、クララと夫婦になりました。

ヴィークはピアノ教師としてはとても優れていたようですが、人格者ではなかったようです。
シューマンに罵声を浴びせたり、ツバをかけたりしたそうなんです。

シューマンが訴訟に踏み切ったのも分かる気がしますね。
彼は大学時代に法律を少し学んでいるので、訴訟を起こせば勝てるという思いがあったのかもしれません。

充実した作曲、文筆活動を送る。そして音楽評論雑誌を創刊へ。

シューマンには文才があったので、駆け出しだったショパンのことを論文にし、紹介したりと文筆活動でも活躍しました。

当時、ドイツで発行されていた音楽評論雑誌に対しあまり質が良くないと感じたシューマンは、自身で評論雑誌「音楽新時報」を創刊します。

シューマンは10年間この雑誌の中心となり活動し、多くの作曲家や演奏家の紹介をしました。
ドイツ三大Bの一人であるブラームス(他2人はバッハとベートーヴェン)も彼によって紹介され有名になりました。

彼の評論の仕方は少し変わっており、評論の内容によってペンネームをつけていました。

衝動的な革命家→ フロレスタン
若い夢想家  → オイゼビウス
成熟した賢者 → ラーロ先生  など

この架空の人物である3人の性格の違いをシューマンは音楽の中に取り入れ、一つの曲の中で曲調がコロコロと変化するように作曲をしています。

これが、シューマンの音楽の最大の特徴で、素敵なところなのです。弾くのは、大変なのですが…
(3つの性格がいつも出てくるわけではありません。)

自分の中に人格を3つ作り、作曲や文筆活動をするというは、思った以上に精神的に負担をかけてしまう行為だったのかもしれません。その後、いろんな苦労や病気もあり精神的に参ってしまいます。

繊細な人、シューマン。苦労の連続で精神的におかしくなる。


妻のクララはとても有名なピアニストでした。
クララと一緒に演奏旅行に行くと、演奏会に聴きに来たお客様から「旦那様も何かされているのですか?」といつも聞かれていたようなのです。

ピアニストを諦めなければいけなかったシューマンにとって、この質問はキツイものだったと思います。作曲家や評論家として同業者には認められていたものの、世間にはまだまだ知られていませんでした。

クララは演奏会で機会があれば、夫であるシューマンの曲を弾いたそうなので、妻の演奏活動によって、シューマンの曲は徐々に広まって行きました。

クララの演奏旅行に一緒について行っていたシューマンですが、旅先で体調を崩し、療養をしなくてはいけなくなります。その後、体調は回復し、音楽院で作曲とピアノ教師の職に就いたり、音楽監督に就任したりと、仕事には恵まれました。

彼は音楽の才能はもちろんありましたが、指揮者に向いていなかったようで、楽団を上手くまとめることが出来ず、次第に信頼を失って行きました。そして、音楽監督に就任してから2年後に辞任してしまいます。

この時の気苦労は、大変大きなもので、この頃からだんだんと精神的におかしくなって行きます。

聴覚の異常や幻覚を見るようになり、ついにはライン川へ身を投げ自殺未遂をします。
その後、精神病院で2年間を過ごし、46歳で亡くなります。

妻クララは最後の2年間は、面会が許されていなかった為、あまり会うことが出来ませんでしたが、いつも彼を側で支えました。

シューマンが自殺未遂をしたという事実は、クララにとってはショックが大きすぎるだろうということで、彼の死後何年か経ってから明かされたそうです。

シューマンの病名や死因については、いろんな説があり、今も断定はされていません。
16歳の頃に経験した、お姉さんの自殺は、彼と死との距離を縮めてしまったのではないかと私は思います。

シューマンはとても真面目で繊細な人でした。
クララとの結婚の際の裁判、演奏旅行での心無いお客様の質問、慣れない仕事への不安と葛藤などを全てきちんと受け止めようしてしまった為に、精神的に参ってしまったのだと思います。

とても簡単そうに聴こえるけど「トロイメライ」の難易度はどれくらい?



この曲は「子供の情景」という作品集(全13曲)の中の第7曲目に入っています。
「子供の情景」は、子供の学習用として作曲されたのではなく、大人が見た子供の日常や子供心を描いた、大人の為の作品です。

この作品集は、妻クララが「時々あなたは子供のように見えます」と手紙に書いた言葉からインスピレーションを受けて作曲したと言われています。どの曲も短く、複雑なリズムは出て来ませんが、表現力はかなり高いものを要求されます。

この曲の曲名「トロイメライ」というのは、日本語にすると「夢み心地」いう意味になります。
曲名を知ると、優しく、しっとりした曲の雰囲気に納得がいきますね。

さて、曲名までわかったところで、この曲の難易度について説明して行きますね。
「トロイメライ」の難易度は、どのレベルで弾きたいかによって変わって来ます。

この曲のメロディーはとても単純で、メロディーのみをただ弾くだけなら、簡単に弾けます。
しかし、この曲をきちんと弾く為には、気を付けないといけない点があります。

シューマンは、バッハとベートーヴェンをとても尊敬していました。特に、バッハの曲と作曲方法については、熱心に研究をしました。その尊敬するバッハの作曲方法である対位法を自身の作風の中に上手く取り込んで、彼は作曲しています。

対位法は、3人、4人で同時に独立したメロディーを演奏しているような感じでありながら、全体としては調和が取れているような旋律をつくり出す為のノウハウを集めたものです。

つまりこの曲を弾く時には、単純にメロディーと伴奏ではなく、1人で3人、4人分の役割を果たしながら演奏しなくてはいけないということなんです。

この作曲方法は、シューマンの特徴の一つでもあります。
これが、気を付けないといけない点です。

このことをしっかり確実に守るには、ある程度の楽譜を読む力と、それぞれの指を独立してきちんと動かせる技術が必要です。

難易度についてまとめると
 ●メロディーをただ弾くだけなら、初級レベル
 ●楽譜の指示をきちんと守り、演奏としてきちんと聴かせられるように弾くのなら、中級レベル

ということになります。

どのレベルで弾きたいのかで、挑戦する時期を変えてみて下さいね。

楽譜通りに素敵に弾くにはどうしたらいい?弾き方のコツは?


難易度のところで少し書きましたが、この曲の難しさは1人で3、4人分の役割を果たさなければいけないことです。

楽譜を見て頂くとわかると思いますが、両手とも内声を伸ばしながら弾いて行かなくてはいけないのです。これは、なかなか難しいことなんですよ。

コツ①メロディーと内声の差を出す

ピアノの場合、普段ペダルを使って演奏しますね。ペダルを踏めば音が伸びてしまう為、伸ばす音をおろそかにしがちです。

弾き比べてみると分かると思うのですが、きちんと指で音を伸ばしてからペダルを使うのと、ペダルに頼り指で音を伸ばさず弾くのでは、音の厚みが違います。

伸ばすのが無理な部分はペダルに頼るしかありませんが、それ以外は指できちんと指定されている拍分伸ばして弾くのが良い演奏に繋がります。

内声部分がしっかり伸びた上にメロディーが乗るようにしましょう。内声は、メロディーを邪魔しない程度に抑えて弾けるようにしなくてはいけません。右手と左手を別々によく練習しましょう。

コツ②タイを確認する

この曲は、タイがとても多いので、どの部分を伸ばすのかをしっかり理解する必要があります。
楽譜をよく確認しましょう。タイは内声部に多くあります。ポイント①と同じ様に、右手と左手を別々に練習しましょう。

ペダルをつけずに、まずは練習してみる方が良いと思います。そうすることによって、音の重なりが分かるようになると思います。

これがシューマンが目指した音楽です。なかなか難しいですよね。

コツ③「rit.」と「a tempo」の指示をしっかり守る

短い曲の途中に「rit.」と「a tempo」の指示が出て来ますね。
この「rit.」と「a tempo」が曲名のトロイメライ=夢み心地を表していると思います。
あまり早くから「rit.」をかけると間延びしてしまうので、指示より前から遅くしないようにしましょう。

コツ④2分音符とタイで伸ばされた8分音符を伸ばしすぎない

この曲は4分の4拍子の曲ですが、拍感が曖昧な演奏をよく耳にします。
私は拍感がなくなるのは良くないと考えているので、4拍子を崩さないようにしています。

この部分を伸ばし過ぎると拍感がなくなります。そして、伸ばし過ぎた分を取り戻すように次の上行の音形で駆け上がるように弾きバランスを取ってしまうのです。

このような演奏に、私はしたくありません。曲名がトロイメライですよ!しっとり弾きたいじゃないですか!!

伸ばす時にしっかり頭でカウントを取るように気を付けてみて下さい。次の音形を駆け上がらず弾けると思いますよ。

コツ⑤クレッシェンドの処理

上行する音形に短いクレッシェンドが書いてありますね。
ここは単純にだんだん大きくとは捉えず、気持ちの高ぶりを表す為のクレッシェンドと捉えた方が良いと思います。音量をただ変えるのではなく、イメージを持って高低差を表現するつもりで弾きましょう。


5つのコツを見てどうでしたか?
あれ??全然簡単じゃないじゃん!!と思われたのではないでしょうか。簡単に聴こえるもの程、実は難しかったりするんですよね。

バッハを尊敬し、3人の架空の人物を使い分けるという少し変わったことをしていた彼が、このような複雑な作曲方法をとったのは、何となく理解できますよね。

同じ時期に活躍した、ショパンやリストが作曲した華やかで聴きごたえのある曲と比べると、シューマンの音楽はあまり目立たないかもしれません。

でも、そこがシューマンの良さでもあるので、他の曲も聴いて、シューマンを好きになって欲しいなと思います。

まとめ

◆父の死により、音楽の道から一時遠ざかっていた
◆法律を学ぶも再び音楽を学び始める
◆指を痛めた為、ピアニストにはなれず、作曲と文筆活動に専念
◆クララとの結婚には、たくさんの困難があった
◆いろんな心労が重なり、精神的におかしくなり、自殺未遂をしてしまう
◆難易度は、どのようなレベルで演奏をしたいかによって違う
◆弾き方のコツは5つ
 ①メロディーと内声の差を出す
 ②タイを確認する
 ③「rit.」と「a tempo」の指示をしっかり守る
 ④2分音符とタイで伸ばされた8分音符を伸ばしすぎない
 ⑤クレッシェンドの処理


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